1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/26(土) 18:58:33.36 ID:9ziUuDhe0
あかり「雨、やまないねー」

結衣「うん…」


今、私とあかりは二人きりで娯楽部の部室、正しくは茶道部室にいた。

なぜ、私とあかりが部室で二人きりになっているのかというと…

少し、本当に少しだけど、複雑な理由がある。

引用元: あかり「七森中学校女子生徒惨殺事件?」結衣「おいコラ」 



2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/26(土) 18:59:42.38 ID:9ziUuDhe0
最近、この七森中学校の女子生徒が惨殺された。

遺体は、見ただけでは誰かもわからないほどグチャグチャだったという。

最近といっても、そろそろ1ヶ月近く前の話になるけれど。

殺されたのは3年生の生徒だったから、私や京子、あかりやちなつちゃんとは関係のない人物だった。

もちろん、殺害された女子生徒というのは松本会長のことでもない。

本当に、顔さえ知らない生徒だった。

学校は、大事をとって一週間休校。

事件の犯人が捕まるか、騒ぎが落ち着くまでは平日でも午前授業のみとし、すべての部活動は活動を自粛することになっていた。

4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/26(土) 19:02:53.83 ID:9ziUuDhe0
今日も午前中の授業が終わり、下校することになっていたんだけれど、急に雨が降り出して

傘の無いあかりと私は茶道部室で雨宿りしていくことにしたんだ。

唯一傘を持っていた京子も、ちなつちゃんを連れて先に帰った。

なんでも、ちなつちゃんの方が用事があったらしく、急いでいたそうだ。

という訳で、私とあかりは今、茶道部室に二人きりでいる。

あかり「二人きりなんて久しぶりだね」

結衣 「そうだね。でも…なんか話す事とかあんまりないな」

あかり「じゃあ、ゲームやらない?」

6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/26(土) 19:05:38.32 ID:9ziUuDhe0
結衣 「どんな?」

あかり「二十の扉って言うゲームなんだけど、結衣ちゃんわかる?」

結衣「ごめん、知らない」

あかり「二十個以内の質問をして、質問の答えをヒントに、相手が何を思い浮かべてるか当てるの」

あかり「たとえば、私が『オムライス』を思い浮かべたとして、結衣ちゃんが『それは食べられる?』って質問したとするでしょ。そしたら、私はその質問にはYESって答える」

あかり「どんどん質問して、二十個の質問のうちに当てられれば結衣ちゃんの勝ち。当てられなかったらあかりの勝ち」

結衣「おもしろそうだね。いいよ、やろう」

あかり「えへへ、じゃああかりが何を想像してるか当ててね」

雨は窓を叩くように強くなり始めていた。

心なしか、風も強くなってきたようだった。

7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/26(土) 19:08:05.90 ID:9ziUuDhe0
結衣「じゃあ、質問するよ。私から見える位置にあるものですか?」

あかり「NOだよ。これで1個目の質問ね。あと19個」1

結衣「それは、お店で売っていますか?」2

あかり「うーん…NOだよ。あかりは売ってるの見たこと無いなあ」

結衣「それは、温かいものですか?」3

あかり「NOだよ。…これだけだとなんか味気ないかな?雑談でもしながらゲームしよう」

結衣「いいけど……あ、そういえば」

ふと、最近の話題といえばこれで持ちきりだろうという、例の事件のことが頭をよぎる。

結衣「そういえば、ここの生徒が殺されたっていうあの話。あかり、殺された3年生の人とは面識あったの?」

あかり「うーん…知らない人だよ」

結衣「そりゃそうか。質問するよ。それはこの部屋にありますか?」4

あかり「無いよぉ。あと16個」

雨が窓を叩く音が聞こえる。考えるのを邪魔されているようで、気分が悪い。

雨が止む気配はまだまだ無い。

9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/26(土) 19:12:43.58 ID:9ziUuDhe0
質問とその答えをちょっと整理してみよう。

私に見えることろには無くて、温かくは無くて、お店では売っていなくて、この部屋には無い。

…意外と難しいなあ。あかりのことだから、もっと簡単にわかるだろうと思ってたけど。

結衣「それは、学校で使うものですか?」5

あかり「NO」

ますますわからなくなったような……

雑談しながら考えれば、頭も柔らかくなるかな?

結衣「それにしても、怖いよね。あかりも夜道とか気をつけたほうがいいんじゃない?」

あかり「うん、そういうときはお姉ちゃんが着いてきてくれるから」

結衣「いいお姉さんだな」

あかり「えへへ、ありがと」

結衣「今とか、怖くない?」

あかり「結衣ちゃんがいるから平気。結衣ちゃんと一緒なら、結衣ちゃんが守ってくれそうで…」

10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/26(土) 19:15:41.05 ID:9ziUuDhe0
あかり「雨強くなってきちゃったね」

結衣「傘ないまま、走って帰ったほうがよかったかもな」

あかり「そうだね…夜まで止まなかったらお母さんもおねえちゃんも心配するし…」

結衣「夜までには止むよ、きっと」

結衣「質問するよ。それは、食べられるものですか?」6

あかり「うーん……食べるものじゃないけど、食べられるかな」

結衣「あかりは食べたことあるの?」7

あかり「あるよ。でも、あんまりおいしくなかったよぅ……」

結衣「食べるものじゃないのに、なんで食べたの?」8

あかり「食べられそうだったから、つい」

結衣「そういうことやってるとおなか壊すぞ」

あかり「大丈夫だもんっ!」

あかり「質問、あと12個」

結衣「今のも数に入るの!?」

あかり「入るよ♪がんばって当ててね、結衣ちゃん」

11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/26(土) 19:20:06.49 ID:9ziUuDhe0
結衣「そういえば、死体の第一発見者は一年生だったらしいけど」

あかり「うん……」

結衣「かわいそうだよな。この前まで小学生だったような子なのに、そんな惨状を見ちゃったなんてさ」

あかり「結衣ちゃんはそう思うの?」

結衣「もし、その子が私だったら、一生トラウマになってると思う」

あかり「結衣ちゃんって意外と豆腐メンタル?」

結衣「そんなことないって。質問続けるよ」

あかり「うん」

結衣「それは、日常生活に必要なものですか?」9

あかり「NO。必要ないよ」

日常生活には必要のないもの……

娯楽に関係するものとかかな?

もしくは、現実には存在しないものとか。

いや、でも……

あかりはそれを食べたことがあるらしいから、存在しない物って可能性はないな。

13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/26(土) 19:23:11.95 ID:9ziUuDhe0
結衣「それは、ペットフードですか?」10

あかり「不正解でーす。ペットフードは一応食べ物でしょ?あかりが思い浮かべてるのは、さっき言った通り、食べ物じゃないけど、一応食べられるもの、なの」

結衣「そっか…自信あったんだけどな」

あかり「えへへ、残念」

結衣「これで質問も半分だろ。お茶でも入れて、一息入れよう」

立ち上がると、雷の音が聞こえた。

あかり「ひゃうっ」

あかりが慌てておへそを隠していた。

素直というか、幼すぎるというか……

中学1年生というには、いくらか子どもっぽさが抜けきれていないと思う。

窓を見ると、雨で遠くの景色がかすんでしまっていた。

相当強い雨が降っているんだろう。

15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/26(土) 19:28:55.51 ID:9ziUuDhe0
結衣「お茶入れてくる」

私は、お茶を入れながら考えた。

もちろん、このゲームの答えのことを。

頭の中で、今の時点でわかっていることを確認していく。

私から見える場所にあるものか? NO

お店で売っているもの? NO

温いかいもの? NO

この部屋にある? NO

学校で使うもの? NO

食べられるもの? YES(でも食べ物じゃないらしい)

あかりは食べたことがある? YES

なぜ食べたの? おいしそうだったから

日常生活に必要なもの? NO

それはペットフード? NO

16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/26(土) 19:31:03.39 ID:9ziUuDhe0
ここで気になるのは、食べられるけれど、食べ物ではないという事についてかな?

ん……?

そういえば、あの殺人事件の遺体の第一発見者は一年生だったよな…

誰が、というのは公表されていないけれど。

でも、もし……

食べられるけど、食べ物じゃない。

あかりは、それを食べたことがある……

考えすぎだよな。

自分の通ってる学校の生徒が、あんなカタチでニュースになってから、私はどうも

過敏になりすぎているように思う。

18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/26(土) 19:36:26.28 ID:9ziUuDhe0
結衣「お茶、はいったよ」

あかり「ありがとう結衣ちゃん!」

結衣「じゃあ、ゲーム続けていいかな?」

あかり「私はかまわないよ」

結衣「よし。それは、堅いものですか?」11

あかり「NO」

結衣「うーんと…それは、大人が使うものですか?」12

あかり「NO。大人子どもは関係ないよ」

質問すればするほど、いやな考えが私の思考を奪う

もしかして、それは…

あかりが食べたことのあるというそれは……

そんなことを考えていたら、いきなり空が光った。

雷が鳴ったらしい。

19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/26(土) 19:39:06.68 ID:9ziUuDhe0
結衣「あの事件、女の子は惨殺されてて、見た目じゃ誰かもわからないほどだったらしいね」

あかり「うん…」

結衣「発見現場はどこだったんだっけ…?」

あかり「この先にある川の土手でしょ?」

結衣「そうだった。そう、あそこにウチの生徒の遺体があって、ウチの生徒が見つけたんだよね」

あかり「そうだけど……どうしたの?」

結衣「別にどういうわけでもないんだけど…ただ、怖いなって」

20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/26(土) 19:42:42.04 ID:9ziUuDhe0
結衣「ごめん、質問続けるよ。それは……動くものですか?」13

あかり「NO。動かないよ」

動かない……

ああ、変な風にばかり、考えてしまう。

結衣「それは、人が作ることのできるものですか?」

あかり「うーん…YES、なのかなあ」

結衣「それは、紙ですか?」14

あかり「ぶっぶー。紙じゃないよ」

結衣「うーん……」

雨の音ばっかり、大きく聞こえる。

21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/26(土) 19:46:37.69 ID:9ziUuDhe0
あかり「難しい?」

結衣「見当は、なんとなくついてるような、ついてないような…」

あかり「あかりが勝っちゃうかもね」

結衣「まだわかんないぞ」

結衣「それは、手で触ることができますか?」15

あかり「YES」

結衣「それは、生きているものですか?」16

瞬間、大きくゴロゴロ、という音が鳴り、窓の外と、部屋の中が眩く光った。

今度の雷は、どこかに落ちたかもしれない。

23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/26(土) 19:49:35.53 ID:9ziUuDhe0
あかり「NOだよ」

生きていないもの。

生きていないもので、食べ物じゃないけど食べられるもの。

お店では売っていなくて、この部屋には無い、そんな物。

正体がだんだん見えてくる、ような気がした。

あかり「質問はあと4つまでだよ」

結衣「わかってるって」

あかり「あとは、どんな質問をする?それとも、もうわかった?」

結衣「さすがに、まだわからないかな」

あかり「結衣ちゃんのことだから、パッとすぐに当てられちゃうかと思ったけど」

26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/26(土) 19:57:59.88 ID:9ziUuDhe0
一つの事について真剣に、それだけについて考えようとしている時に限って、思考はほかの方向へ行こうとする。

その例に漏れず、私もこのゲームの事以外に、思考が逸れつつあった。

惨殺死体はグチャグチャ。

第一発見者はこの学校の一年生。

いけないいけない。ゲームについて考えないと…。

この部屋には無い。

売っているものではない。

あかりはそれを食べた事がある。

生きていないモノで…

32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/26(土) 20:01:46.76 ID:9ziUuDhe0
結衣「あと、四つだっけ?」

あかり「そうだよ」

結衣「えっと…それは、自然界に存在するものですか?」17

あかり「はい」

結衣「それは、病気の人が使うものですか?」18

あかり「いいえ」

あかり「ねぇ結衣ちゃん…」

結衣「なに?」

34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/26(土) 20:05:54.07 ID:9ziUuDhe0
あかり「もう少し慎重に質問を使わないと…」

結衣「ああ、あと2つだもんな」

あかり「うん」

結衣「それは、犬ですか?」19

あかり「ぶぶー。残念でした」

あかり「真剣にやってるー?」

結衣「大人気ないほどマジになってやってるんだけど…」

私の顔を見つめるあかりの目は、いかにも無害そうな

無邪気な目をしていた。

36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/26(土) 20:09:48.60 ID:9ziUuDhe0
さあ、次で当てなければならない。

負けるのは悔しいから、もちろん当てたい。

答えは…。

あっ。

もしかしたら…

不意に、一つのものが思い浮かんだ。

37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/26(土) 20:13:04.96 ID:9ziUuDhe0







結衣「それは、雪ですか?」20








39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2011/11/26(土) 20:15:36.22 ID:9ziUuDhe0
あかり「正解っ!」


耳を澄ますと、雨の音は消えていた。

窓の外を見ると、空は晴れていた。

               おしまい

参考文書 有栖川有栖 著 新潮文庫刊〈絶叫城殺人事件〉収 「黒鳥亭殺人事件」