老人「文明が崩壊した地球(ほし)で……ワシはひたすら旅を続ける」
老人「……」ザッザッ
老人「……」ザッザッ
老人「……」ザッザッ
老いを感じさせない足取りで、老人は歩き続ける。ひたすらに……
ゴゴゴゴゴ… グラグラグラ… ドドドドドド…
「きゃあああああっ!」
「うわぁぁぁっ……!」
「助けてくれーっ!」
世界中を巻き込んだ大災害は、何もかもを破壊した。
人類が永い時間をかけて築き上げた文明は、一瞬で崩壊してしまった。
ほんのわずかに生き残った人々は、手を取り合い、少しずつ少しずつ……
「家が建ったぞ!」
「おーっ、やったーっ!」
「水汲んできたぞー!」
人間らしい生活を取り戻していったのだ。
人々はかつての文明を取り戻したというには程遠いものの、
各地にそれぞれの集落を形成しつつ、超巨大地震後の新時代を生き抜いているのである……。
老人「……」ザッザッザッ
老人(この近くには集落があるようだ……)
老人(しばらくはそこを拠点に……“捜す”としようか)
チンピラ「なんだ、あのジジイ? きったねえナリでここらへんうろちょろしやがって……」
老人「ふぉ?」
チンピラ「ここらは俺のナワバリなんだ。通るんなら、何か食い物の一つでもよこしな!」
老人「食い物なんか持っとらん」
チンピラ「あ? だったらここを通すわけには……」
老人「……」
チンピラ「……!」
チンピラ(なんだこのジジイ……なんつう目をしてやがるんだよ……!)
チンピラ「なんでだよ!?」
老人「……」ザッザッザッ…
チンピラ「なんなんだ、あのジジイは……」
仲間「聞いた話じゃ、あのジジイ、軽く数百年は生きてるらしいぜ」
チンピラ「す、数百年!?」
仲間「かつて文明が栄えてた頃から生きてて、それからずっと世界をさまよってるなんて噂もある」
チンピラ「なんだそりゃ……バケモノじゃねえか」
仲間「とにかく、あんなのには近づかない方がいい」
仲間「どんな呪いや病気持ってるか分かんねえし、ろくなことにならないぜ」
老人「ふむ……」
老人「しばらくはこの集落で過ごすか……」
集落民A「あの爺さん、ここに来てからずっと飲まず食わずだぜ? どうなってんだ」
集落民B「時折、近くの瓦礫やゴミを漁ってるのを見かけるが、なにか食ってる様子はねえしな」
集落民A「やっぱり不死身だっつう噂は本当なのか……」
集落民B「かもな。いずれにせよ、関わることはねえ。触らぬ神になんとやらさ」
少女「……」スタスタ
老人「……ん? なんだいお嬢ちゃん」
少女「これ……」
老人「これは……スープかな?」
少女「……」コクッ
少女「おじいさん、なにも食べてないんでしょ? よかったら……どうぞ」
老人「……」
老人「ありがたく頂くとするかのう」
少女「……」パァッ
少女「どう?」
老人「ありがとう……おいしいよ」ニコッ
少女「……よかった!」
少女「じゃあ、またね、おじいさん!」
老人「ああ……」
老人(どうやら……ここに求めるものはなかった。また別の地に移るとしよう)
少女「おじいさん!」
老人「……ん?」
少女「もう……行っちゃうの?」
老人「ああ、もう行っちゃうんだ」
少女「そうなんだ……」
老人「……いいとも」
老人「スープのお礼をしなくちゃいけないもんな」
少女「……!」パァッ
老人と少女は座り込んで、話を始めた。
老人「その通り」
少女「どんな世界だったの?」
老人「今よりずっと人口が多く、食べ物は豊富で、暑さも寒さも機械で克服し」
老人「テレビという装置で、楽しいお話を見ることができ」
老人「自動車や飛行機で、遠くにもすぐ行くことができ」
老人「分からないことがあってもすぐ調べることができた」
少女「へえ、じゃあみんな今よりずっと幸せだったんだ!」
老人「そうとも限らないのが、人間の難しいところなんじゃよ」
少女「ふうん……」
老人「探し物をしておるのじゃよ」
少女「それは……人?」
老人「そうじゃな、人でもあるのう」
少女「それは……絵?」
老人「そうじゃな、絵でもあるのう」
少女「それは……機械?」
老人「そうじゃな、機械でもあるのう」
少女「それは……思い出?」
老人「思い出……そうじゃな、それが一番近いかもしれんのう」
老人「思い出を見つけ出すまでは……ワシは死ぬわけにはいかんのじゃ」
老人「その執念が、ワシを生き長らえさせておるんじゃよ」
老人「ありがとう」
少女「じゃーねー! 元気でねー!」
老人「おーう」
老人「……」ザッザッザッ
老人(見つけるまで……死ねない)
老人(もしも万が一まだ機能が死んでなくて、いつか誰かに中の画像を見られでもしたら……)
老人(あれを捜し出して、この手でブッ壊すまで、オレは死ぬわけにはいかねんだぁぁぁぁぁ!!!)
― END ―
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コメント一覧 (13)
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- 2020年05月23日 03:20
- 悪くない
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- 2020年05月23日 03:23
- いい世界観を自ら全力で破壊
なかなかできる事ではない
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- 2020年05月23日 03:24
- うーん......
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- 2020年05月23日 03:40
- 終末物のSFっていいよなあとか思いながら読んでたらオチで草
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- 2020年05月23日 03:52
- これはいい視点
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- 2020年05月23日 03:59
- HDDが生きてても文明滅ぶレベルなら電気もないだろうし再生できんじゃん
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- 2020年05月23日 04:07
- これが未来の俺の姿…、いや、お前らのなのか…。どーでもいい事だが自分が住んでた所掘ればいいんじゃねーの?w
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- 2020年05月23日 04:44
- もう既にHDDが木っ端微塵になってたら永遠に見つからないし、永遠に壊れたかどうか確かめられないから、永遠に死なないじゃねーかw
自分もできるだけ見られたら死ぬような画像を集めておいて長生きしよっと
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- 2020年05月23日 09:52
- よく思うんだけど死んだ後にいかがわしいもの見られるのそんなに嫌か?
しんじまえば恥ずかしいだのなんだのそんな事も分からないのに
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- 2020年05月23日 12:07
- パソコン見つけた瞬間に力尽きるんだろうか
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- 2020年05月23日 12:07
- 吹いたわ烏龍茶返せw
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- 2020年05月23日 15:50
- エロじゃなくて厨二でも淫夢でも、見られたくないものは一杯あるやろ
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- 2020年05月23日 22:32
- >>26でもしかしたらと思ったら本当にそうだった感。他にも数百年単位で生き残っている奴いそうだな。。。