【モバマス】岡崎泰葉「コーヒーフロートを飲みながら」
...それは、6月のある日のこと。
現場に少し早めについてしまい、プロデューサーと二人で時間をつぶすことになったときのこと。
こういった事は時々ある。
どこに行く?と聞かれたが、朝も早かったので選択肢もなく、少し年季が入った喫茶店を見つけ、そこに入ることにした。
プロデューサーはコーヒーが好きだ。
私はブラックじゃなければ飲める程度ではあるが、こういう所の雰囲気は嫌いではない。
...趣味が合うというのはいいことだと思う。
席についてメニューを見て、プロデューサーにアイスココアがいいと伝えた。
プロデューサーは店員さんを呼んで...そして
「すいません。コーヒーフロートとアイスココアをお願いします」
......正直驚いていた。
プロデューサーはかなりの確率でホットを頼む。
砂糖やミルクを入れることは殆どなく、砂糖を入れるところは全く見たことがない。
そんなプロデューサーがアイスコーヒー、しかもフロートなんて物を頼むとは思っても見なかったのだ。
「コーヒーフロートとアイスココアですね。アイスココアもフロートに変更出来ますが、どうなさいますか?」
「どうする?」
「...あ、えっと。大丈夫です」
「大丈夫です」
「かしこまりました。おまちください」
笑顔でカウンターの方に注文を通しにいく店員さんを見送る。
...自分でもわからないけれど、何故か遠慮してしまった。
別に遠慮することなど何もないはずなんだけれど、こういうところが自分は保守的だな、と思う。
――――――――
――――
程なくして、結露と日光でキラキラしたグラスが私達の前に二つ置かれる。
プロデューサーの方にはパフェに使う細長いスプーンも置かれていた。
...なんというか...珍しい光景だ。
丸いアイスクリームが乗ったアイスコーヒー。
シンプルな白と黒がキラキラしているような錯覚を覚える。
茶色いココアを一口飲みながら、プロデューサーの動向を探ることにした。
プロデューサーは普通にストローで一口コーヒーを飲んだ。
そしてスプーンでアイスを食べる。
...割と普通の食べ方だ。いや、当たり前なんだけれど。
ふと顔をあげるとプロデューサーがこっちを覗き込むように見ていた。
「......どうかしたか?」
「いえ、別に...」
「珍しいって顔してるぞ?」
「...いつからですか」
「注文したときからずっとだな」
「...わかっちゃいますか」
「まあ...なあ。それなりに付き合いも長いし、わかるときもある」
「なるほど」
...私の考えはお見通しだったらしい。
...というかかなり怪訝な顔をしていたようだ。ちょっと反省。
「...プロデューサーさんは」
「うん」
「甘い飲み物苦手じゃないですか」
「...まあ、あまり飲む方ではないな」
「コーヒーフロートは大丈夫なんですか?」
「まあ...大丈夫かな?」
「なるほど......」
「気になるのか?」
「わりと。なんか珍しい光景なので」
「うーん...何て言えばいいんだろうな」
「...言いにくいことなんですか?」
「いや、そういうわけじゃない。なんていうか...。俺の中だとこれはコーヒー味の甘い物っていうカテゴリなんだ」
「...なるほど?」
確かにプロデューサーは甘い物自体は別に嫌いではない。
私はメロンパンが大好物ではあるが、そのきっかけはプロデューサーにプレゼントされて、一緒に食べたことだったりするのだ。
たまに差し入れのお菓子なんかが来る時も嬉しそうに食べていたりもする。
私にとってのコーヒーフロートは甘い飲み物なのだがプロデューサーにとっては食べ物らしい。
言われてみれば曖昧な気がする。
「美味しいですか?」
「泰葉は食べたことないのか?」
「似たようなものならありますよ」
「あー...最近流行ってるタピオカの飲み物か?」
「残念ながらそういうのではないです」
「そうなのか。まあ甘いの乗っかった飲み物は多いからな」
「そうですね。...好きなんですか?コーヒーフロート」
「嫌いじゃないよ...というかね」
「はい」
「...こうも暑いと冷たいものが欲しくなってなあ」
「ああ、わかります。今日も暑いですもんね」
まだ6月だが、夏を前借りしているかのごとく最近はとても暑い。
気温の高さがニュースで話題になっていたりする程だ。
それが、暑いということをまた意識させて余計に暑く感じる事が多かった。
私は、移動や事務所に来る時は私服だし、制服も夏服で、ある程度の調整はできるけれど、
プロデューサーみたいなスーツは大変だろう。
一応夏仕様だとはいっていたけれどそれでも見た目からして暑そうだ。
「スーツ自体は嫌いじゃないけど夏のスーツは暑いよ...今年は特に辛い」
「見てるこっちも暑いですよ」
「...正直こっちも脱ぎたいよ」
「なんならステージ衣装とか着ますか?ブルマとかも涼しくておすすめですよ?」
「......遠慮しとく」
「...私には着せたのにプロデューサーは着ないんですか?」
「色々あれなんで勘弁してください」
「しょうがないですねえ...あれ?」
...ふと見ると、プロデューサーがアイスを殆ど食べていないことに気づいた。
上の方だけ軽く食べているが、底の方は殆ど手付かずである。
「どうかしたか?」
「いえ」
「そうは見えないけど」
「あの...手が止まってるみたいなんですが」
「...目ざといな」
「遠慮するなと言われたようなので」
「別に悪いとはいってないよ...なんていうか...待ってるんだ」
「待っている、ですか?」
「...もういいかな」
そういってプロデューサーはアイスクリームを下の方から掬って美味しそうに食べ始めた。
心なしか顔がほころんでいるような気がする。
「...そんなに美味しいんですか?」
「このシャリっとしたところが子供の頃から大好きでさ」
「シャリッとした?」
「氷とバニラアイスとコーヒーがちょっとずつ混ざってかき氷みたいになるんだよ。これが美味しいんだ」
「...ほう」
「......ちょっと子供っぽいかな」
「そんな事ないと思いますよ?」
「そうかな」
「はい」
「そうか...もしかしたらココアの方が子供っぽい説もあるか」
「ココア差別をやめてください。今すぐ」
「...確かにココア差別はよくないよな」
「ココア差別反対です」
「甘くて美味しいしな...ココア」
「はい。ココアはとても美味しいんです」
「でもさ、泰葉」
「なんですか?」
「ブラックコーヒーは人の飲み物じゃないって前に俺に言ったよな。あれは差別じゃないのか?」
「苦いですから、しょうがないと思います」
「子供か」
「子供ですよ」
「そういえばそうだ...そんでな、泰葉」
「はい?」
「そんなじっと見られていると...その...なんだ...食べにくい」
「あ、すいません。美味しそうだったものでつい」
「......食べたいのか?」
「はい」
「...もう一杯頼むか?」
「いいえ」
「...いいのか?」
「...どっちかっていうとですね」
「ああ」
私が頼んだアイスココアはもう空になっていて、ストローで氷をつつくとカラカラと涼しげな音を立てた。
私が望んでいるのはそういうことじゃないってプロデューサーもわかっているだろうに。
本当にこの人は...なんというか、手強い。
「今の、そのシャリシャリ部分が食べたいです」
「...スプーンもらうか」
「いらないでしょ。あーんしますから食べさせてください」
「...いや、それはまずくないか?」
「何がまずいんですか?」
「...あのな泰葉」
「人目があるのが問題ですか?人目がないならやってもいいんですか?」
「や、泰葉?」
「大丈夫ですよ、こんなん大したことじゃないです。私は子供なんでしょう?」
「...まあ、そこまで人もいないし大丈夫か」
「最初からそう言えばいいんです」
私は親の餌を待つひな鳥のように口を開けた。
プロデューサーは苦笑していたが、スプーンからシャリシャリを掬って私の口に入れる。
アイスクリームの確かな甘さ、アイスコーヒーのほろ苦さ、そして氷の部分の食感が一つになっていて、
口の中に入れた途端に解けていく。
それはとても清涼感のあるデザートになって...うん...これは...わりと...いやかなり......
「...どう?」
「...かなり美味しいです」
「そうか、それはよかった」
「新しい甘味の可能性を垣間見ました」
「そ、そこまでか」
「はい」
「ちなみに...クリームソーダとかもこれができるんだぞ」
「なるほど。今度やってみましょうかね」
「..言っといてなんだけど、泰葉って炭酸苦手じゃなかったっけ?」
「得意じゃないですけど美味しそうじゃないですか」
「まあクリームソーダにはさくらんぼもついているしな」
「そこって重要ですか?」
「うーん、そこまでさくらんぼが好きってわけじゃないんだが...」
「好きって聞いた事ない気がしますね」
「ないと寂しい気がする」
「...確かに?」
「今度」
「うん?」
「私も頼んで見ますね」
「そうだな、いいと思うよ」
「そしてあーんしてあげましょう」
「...それはいいかな」
「...む~」
「......お、そろそろ時間だな。出ようか」
「......はーい」
こうして、仕事に向かう前のちょっとした出来事は終わりを告げた。
GBNSの皆でカフェに立ち寄った時その話をした時、皆に大胆だねえと笑われた。
暑かったからねと誤魔化したが...冷静に考えれば確かに割と恥ずかしかった。
二度とやらないとは思わないけれど。
そして、私の夏のメニューにコーヒーフロートが加わったのだった。
そして... 7月になった。
【喫茶店】
今、私は一人でコーヒーフロートを飲んでいる。
今日も日差しはとても強くて、太陽が夏であることを全力でアピールしているかのようだ。
窓の外には汗を拭いている男性や、日傘を刺している女性など
それぞれの暑さ対策をしている人達が歩いているのを眺めることが出来る。
私は冷房の効いた店内でストローで苦いコーヒーを飲み、アイスの上を食べて苦味を中和し、シャリシャリが始まったら全力で楽しむ。
1000円も使ってないはずなのに、とんでもない贅沢をしているんじゃないかと錯覚しそうだ。
...なんだかんだでこの食べ物も大好きになった。
好きな人の好きなものを知り、自分も好きになるこの感覚は割と好きだったりする。
...将来的に困ることが減るかもしれないし。
いや、将来はまだわからないんだけれど。
...ドアのベルがなった。
入り口を見ると見知ったスーツの男性がそこにいて、私を見つけて手を上げた。
私がそれに答えると、その人は向かい側に座っておしぼりを受け取り額の汗を拭き始めた
私は少し笑いながら
「お疲れ様です」
「おつかれ...」
「...ちょっとおじさんくさいですよ?」
「...わかってる...けど暑いし...冷たいおしぼりが気持ちいいわ本当」
「も~...しょうがないですねえ」
「ごめんごめん」
「そういうことなら私から一つ提案がありますよ?」
「お、なんだなんだ」
「はい、どうぞ」
「...この差し出されたスプーンをどうすればいいのかな?」
「溶ける前にあーんしてください。シャリシャリがいい感じになっていますよ?」
「......いや、自分で頼むよ」
「むー...そういういけずなこというのは良くないと思います」
「それは誰の影響なんだ......すいません、コーヒーフロートをください」
「も~」
「......ふう、落ち着いた」
「...よかったです」
「...あー」
「なんでしょうか」
「...いや、あの...気に入ってくれたんだなってさ」
「...ああ。美味しいですよ...コーヒーフロート」
「それはよかった」
「さくらんぼはないですけどね」
「......そうだな」
...プロデューサーが言葉を選んでいる。
まあ理由はわかっていたりする。なぜならば、今日は私の誕生日なのだ。ハッピーバースデー私。
昔は仕事ばっかりしていた。今日だって仕事はある。
プロデューサーがプレゼントを渡す時間が欲しくて少しだけ集合時間を少し早めて私に伝えたのだ。
今日は千鶴ちゃんと一緒の仕事で、打ち合わせという名の雑談してるうちに集合時間の齟齬が発生した。
何でだろうと話しているうちに同時に察した。
察した時の千鶴ちゃんの様子がとても面白かった。
...私も似たようなものだったかもしれないけれど。
...昨日泊まり込みだった癖に、何食わぬ顔で来てるのを知っています。
周子さんや洋子さんに頭をさげてプレゼントの相談したのも知っています。
そしてその相談を活かしたプレゼントがカバンに入っているのも知っています。
周子さんはニヤニヤしていたし、洋子さんは隠し事はできないんですよ?
今度から人選は考えたほうがいいと思います。
私のために無理して、仕事調整して自分で探し回って、
これでいいのか考えて、人に頭をさげて聞きまわって、
それでもまた悩んで、多分そのカバンの中のものに決まったんですよね?
そこまで想っていてくれることが、とてもありがたいです。とても嬉しいです。
私の生活はあの頃と変わりました。
恐らく仕事先でも事務所に帰ってからも色んな人に祝われると思います。
現にLINEがいっぱい届いています。
日付変わった瞬間に何人かから送られてきました。
本当にありがたいことです。
......でもね。
「プロデューサー」
「...うん?」
「今日が何の日か、知ってますか?」
一番最初に、祝ってほしいのは、貴方なんですよ?
「...誕生日おめでとう。泰葉」
「はい、ありがとうございます♪」
「...はは、いい笑顔だ」
これが今年の私の誕生日の始まり。
来年も、この日を笑顔で迎えられるといいな。
「来年もこうやって祝ってほしいですね」
「...まあ、できるといいな」
「再来年もその次も」
「...そこまでは、さすがに保証はできないぞ」
「大丈夫です。私結構欲張りですし、わりと初志貫徹精神持ってますので絶対に実現させますよ」
「そ、そうか...じゃあ大丈夫かなあ」
「ずっともらい続けますから楽しみにしていてくださいね...Pさん」
泰葉誕生日おめでとう。
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コメント一覧 (8)
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