喪黒福造「今こそ、鳥人間コンテストへの出場を目指してみませんか?」 窓際社員「えっ、いきなり何を言い出すんですか?」
ただの『せぇるすまん』じゃございません。私の取り扱う品物はココロ、人間のココロでございます。
この世は、老いも若きも男も女も、ココロのさみしい人ばかり。
そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。
いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。
さて、今日のお客様は……。
鳥海遼太(44) 会社員
【飛ぶ】
ホーッホッホッホ……。」
大高「鳥海君。君は部長代理に昇進することが決まった」
テロップ「大高公平(56) 鳳製作所常務」
鳥海「私が部長代理になるんですか?」
テロップ「鳥海遼太(44) 鳳製作所課長」
大高「そうだ。これは、今までの君の働きを踏まえた上でのポストだ。悪い肩書ではないだろう」
鳥海(何か嫌な予感がするな……。もしかすると、単なる出世ではなさそうだ……)
1か月後。鳳製作所。社内では、今日も社員たちがデスクに向かって仕事を行っている。
一方、鳥海は何もしないまま、たった一人窓際の席にポツンと座っている。
鳥海(部長代理への昇進とは、やはりそういうことだったのか……)
テロップ「鳥海遼太(44) 鳳製作所部長代理」
晴子「あなた、このところ帰宅が早くなったね」
テロップ「鳥海晴子(43) 遼太の妻」
鳥海「うん……。何というか、その……」
晴子「子供の教育費もかかるんだから、あなたがしっかりして貰わないとね……」
鳥海「分かっているよ、晴子……」
とある学習塾。教室で、鳥海の息子が塾の授業を受けている。
テロップ「鳥海雄大(9) 遼太の息子」
鳥海家、台所で食事をする鳥海と晴子。
鳥海(俺が窓際社員になっただなんて、晴子に言えるわけないよな……)
鳥海(何という退屈な毎日なんだ……。俺は何のために出社しているのか……)
しばらくした後、鳥海は居眠りをする。
夜。とあるスナック。店内に集まる客たち。客の中には、鳥海や喪黒福造がいる。
マイクを持つ鳥海。鳥海は、井上陽水の曲「紙飛行機」を歌っている。鳥海の歌に聞き入る客たち。
歌い終わった鳥海に、喪黒ら客たちが拍手をする。
喪黒「いやぁ……、見事な歌いっぷりでしたなぁ」
鳥海「ど、どうも……」
スナックを出る鳥海。鳥海の隣には、喪黒がいる。
喪黒「あなた、井上陽水がお好きなのですか?」
鳥海「ええ、まあ……。井上陽水の曲は、私の持ち歌なんですよ」
鳥海「はい、そのことなんですけど……。私は別の意味で、仕事で悩みがありまして……」
喪黒「仕事の悩みですか……。どうやら、あなたにも心にスキマがおありのようですなぁ」
喪黒が差し出した名刺には、「ココロのスキマ…お埋めします 喪黒福造」と書かれている。
鳥海「ココロのスキマ、お埋めします?」
喪黒「実はですねぇ……。私、人々の心のスキマをお埋めするボランティアをしているのですよ」
鳥海「人生相談とか、そういうお仕事なんですか?」
喪黒「あなたのような人を救うのが、私の仕事なんです。何なら、相談に乗りましょうか?」
BAR「魔の巣」。喪黒と鳥海が席に腰掛けている。
喪黒「ほう……。鳥海さんは鳳製作所の部長代理なのですか。この年にしては、それなりの待遇ですねぇ」
喪黒「つまり、部長代理の地位は名前だけのポストということですか」
鳥海「そういうことですね。しかも……。部長代理になってからの私は、窓際の席に座らされて何もしないままでいるんです」
喪黒「なるほど。要するに、今のあなたは窓際社員になったということですよねぇ?」
鳥海「その通りです。現在の私は、名前だけのポストを与えられたまま、飼殺し状態に置かれているんですよ」
喪黒「そうですか……。実力を発揮しきれず、飼殺しにされるとは、あなたにとってはたまったもんじゃないでしょう」
鳥海「そうに決まってますよ!窓際になる前は、仕事に精を出していましたから……」
喪黒「では、会社からの転職や独立を考えたことはありますか?」
鳥海「それはないですね。だって、私には妻や子供がいますから……」
「転職や独立を言い出したら、家族に迷惑がかかりますよ。だから、今のままでいるのが無難なのかもしれません」
喪黒「鳥海さん。飼殺されたまま生きるのは、もったいないですよ。空を飛ぶ鳥のように、自由にのびのびと生きてみたらどうです?」
「私は昔から、大空に対する憧れがあったもので……」
喪黒「ほう……。じゃあ、鳥海さん。あなたは大学時代、鳥人間コンテストに出場したことはありますか?」
鳥海「まあ、その……。大学時代、私やサークル仲間たちは鳥人間コンテストへの出場を目指したんですけど……」
「書類審査で失格になって、残念ながら出場はできませんでしたね……」
喪黒「ならば、鳥海さん……。今こそ、鳥人間コンテストへの出場を目指してみませんか?」
鳥海「えっ、いきなり何を言い出すんですか?」
喪黒「鳥人間コンテストへの出場を目指すことにより、窓際社員となったあなたにも目標とやりがいが生まれるはずですよ」
鳥海「で、でも……。飛行機を作ったり、コンテストに出場したりするのには、私以外にも仲間が必要になりますから……」
喪黒「鳥海さん。会社の関係者たちに事情を話せば、彼らがあなたの仲間になってくれますよ」
鳥海「何ですって……」
喪黒「それに、鳳製作所は精密機器を作る会社でしょう?だから、飛行機を作る機材を揃えることだって可能ですよ」
「果たして、会社の関係者たちは私に協力してくれるんでしょうか?」
喪黒「大丈夫です。鳥人間コンテストへの出場が実現すれば、鳳製作所には格好の宣伝材料が生まれます」
「会社の技術力をPRするいい機会になりますし、これによって理系の新卒が次々と入社するでしょう」
鳥海「それは、あり得るかもしれませんね……」
喪黒「何よりも……。鳥人間コンテストへの出場を目指すことにより、社内でのあなたの評価も一変するでしょう」
「まさに、いいことづくめですよ」
鳥海「うーーーん……」
喪黒「鳥海さん。大空へ思い切り羽ばたいてみましょう!」
鳥海「……分かりました。喪黒さんがそこまでおっしゃるのなら……」
ある温泉旅館、宴会場。鳳製作所の社員たちが宴会を開いている。鳥海も宴会に加わっている。酒に酔い、談笑する一同。
鳥海「私はねぇ……。鳥人間コンテストへの出場を目指そうと思ってるんだよ……」
鳥海「そうだよ」
社員「えっ!?部長代理、本気ですか?」
鳥海「本気で言ってるんだよ。何しろ私は大学時代、鳥人間研究会に所属していたからな……」
一同「オーーーーーーッ!!!」
鳥海の決意表明に対し、一同がどよめく。
鳳製作所。仕事をする社員たちに対し、窓際の席に座ったままの鳥海。
正午。社員食堂で食事をする鳥海。鳥海に、社員たちが次々と寄ってくる。
社員A「部長代理、鳥人間コンテストの出場を目指すそうですね」
鳥海「ああ。大空への夢を、どうしても諦めきれなかったもんでな……」
鳥海「ありがとう……」
夜。鳳製作所、会議室。プロジェクターが、スクリーンに映像を映し出す。スクリーンを眺める鳥海ら一同。
スクリーンには、過去の鳥人間コンテストの録画が映されている。それぞれ、個性的な飛行機で大空を目指す参加者たち。
飛行に成功できたある参加者。また、飛び立てないまま湖へと墜落する別の参加者。インタビューを受けるチーム。
鳥海(俺もここに必ず加わるんだ……。何が何でも鳥人間コンテストに参加し、大空を飛んでみせるぞ……)
数日後、昼。鳳製作所。執務室で、大高常務と会話する鳥海。
大高「鳥海君。君は、鳥人間コンテストへの出場を目指しているそうだね?」
鳥海「はい。大高常務」
大高「その件なんだが……。鳥人間コンテストへの参加は、会社ぐるみのプロジェクトになるかもしれない」
大高「コンテストへの出場を目指すのは……。君の趣味の次元ではなく、会社の仕事そのものになる」
「もちろん、チームで飛行機を作るのもな。仕事だから、給料も出るし待遇も保証済みということだ」
鳥海「……ということは」
大高「鳥人間コンテストへの出場を目指すのは、鳳製作所のチームであり……。チームのリーダーは当然、君だ」
「何なら、鳥海君。君を部長にしてやってもいいんだぞ」
鳥海「私が部長になるんですか?」
大高「そうだ。鳥人間コンテストへの出場を目指すのが、君の部署というわけだぞ。悪い話ではないだろう……」
廊下を歩く鳥海。鳥海の頭の中に、喪黒の言葉が思い浮かぶ。
(喪黒「鳥人間コンテストへの出場を目指すことにより、社内でのあなたの評価も一変するでしょう」)
鳥海(まさか、喪黒さんの言った通りになるとはな……。だが、こうなった以上俺はやるしかない!)
喪黒「鳥海さん。部長への昇進、おめでとうございます」
鳥海「まあ、その……。私の部署は、鳥人間コンテストへの出場を目指すこと自体が仕事になりましたから……」
喪黒「これで、あなたも晴れて窓際社員ではなくなりましたねぇ」
鳥海「はい。それもこれも、鳥人間コンテストへの出場を目指すとみんなに言ったおかげ……」
「本当に、何が幸いするか分からないものですよ」
喪黒「鳥海さん。鳥人間コンテストへの出場、ぜひとも果たしてくださいよ」
鳥海「ありがとうございます。今の私は、会社を挙げたプロジェクトのリーダーですから……」
「何かと責任が重大なんです。ここで投げ出すわけにはいきません」
喪黒「その意気や良し!……と言いたいところですが、あなたには約束していただきたいことがあるんですよ」
鳥海「約束!?」
喪黒「そうです。今の調子で頑張れば、あなたは鳥人間コンテストに間違いなく出場できるでしょう。ただし……」
喪黒「鳥海さんが鳥人間コンテストに出場するのは、たった1回だけにしておいてください」
「この大会への出場を果たした後は、あなたは普通の会社員として生活をするべきなのですよ。いいですね!?」
鳥海「わ、分かりました……。喪黒さん」
鳳製作所。机の上には、飛行機の設計図が置かれている。設計図を取り囲む鳥海ら社員たち。
設計図に指を差し、何かを話す鳥海。鳥海の話に耳を傾ける部下たち。
とある山。自作の飛行機を置く鳥海ら社員たち。機体を操縦し、テスト飛行をする鳥海。
鳥海(よし、これはいけそうだ……!)
鳳製作所。鳥海たちがいる部屋に、女性社員が入ってくる。
女性社員「鳥人間コンテストへの書類審査が通りました!」
一同「やったーーーーっ!!」
飛行機を掲げ、スタート台に立つ鳥海。かたずをのんで鳥海を見守る鳳製作所チーム。
審判員「ゲート、オープン!!」
スタート台から飛び立つ鳳製作所の飛行機。鳥海が操縦する機体は、悠々と上空を羽ばたいていく。
鳥海(と、飛んだんだ……!!俺は空を飛ぶことができたんだ!!)
巨大なスクリーンに表示される記録。鳥海の飛行記録は、40キロメートルだ。
アナウンサー「40キロメートル完全制覇が実現しました!!奇跡です!!」
歓声を上げる参加者たち。抱き合って喜ぶ鳳製作所チーム。感極まった表情の鳥海。
1か月後。鳥海家、台所。妻・晴子や息子・雄大と朝食をとる鳥海。
雄大「テレビでのお父さん、かっこよかったよ」
鳥海「お前にそう言って貰えると、お父さんうれしいよ」
鳥海「そ、それは……」
翌月。鳳製作所。執務室で、大高常務に呼び出される鳥海。
大高「鳥海君。来年も鳥人間コンテストへの出場を目指してみたらどうかね?」
鳥海「あの……。確か、鳥人間コンテストの出場は1回限りのはずでは……」
大高「そういうわけにはいかん。会社ぐるみのプロジェクトだから、毎年出場をするべきなんだよ」
部下たちがいる部屋に戻る鳥海。
部下A「部長!来年も、鳥人間コンテストへの出場を目指すんですか?」
部下B「もちろん、来年もやりますよね?」
部下C「私たちは、たった1回だけで夢を終わらせたくありません!」
鳥海「ああ……。来年も、鳥人間コンテストへの出場を目指そう……」
鳥海「やぁ、喪黒さん……。お久しぶり……」
喪黒「鳥海遼太さん……。どうやらあなた……、私との約束を破ったようですね!」
鳥海「なっ……」
喪黒「私は言ったはずですよ。あなたが鳥人間コンテストに出場するのは、たった1回だけにしておけ……と」
「にも関わらず……。鳥海さんは、来年も鳥人間コンテストへの出場を目指そうとしていますねぇ」
鳥海「す、すみません……。周囲からの期待があって、どうしても断りきれなかったんです!」
「だって……。会社ぐるみのプロジェクトになってしまった以上、止めることができなくなって……」
喪黒「弁解は無用です。約束を破った以上、あなたには罰を受けて貰わなくてはなりません!!」
喪黒は鳥海に右手の人差し指を向ける。
喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」
鳥海「ギャアアアアアアアアア!!!」
喪黒のドーンを受け、地面から両足が離れる鳥海。彼の身体は地上から遠ざかり、夜空へと浮き上がっていく。
鳥海「すごいぞ……!!俺は空を飛んでいるのか……!!まるで夢のようだ……!!」
空を飛び続けた後、ゆっくりと地上へ降りようとする鳥海。しかし、彼の両足が地面に触れようとした時……。
鳥海の身体は、再び上空へと浮かび上がっていく。何かの力に押されたかのように。驚く鳥海。
鳥海「!?」
鳥海はもう一度、地上へ降りようとする。しかし、彼の身体はまたも浮かび上がる。一連の動作を繰り返し続け、遂に……。
鳥海「おーーーーい!!降ろしてくれーーーーっ!!」
ネオン街にいる喪黒。
喪黒「有史以来……。人間は大空に対して何かしらの憧れを持っており、鳥のように自由に空を飛ぶことを夢見続けてきました」
「飛行機の発明で、人間は空を征服したかに見えますが……。それでもなお、機械に頼らなければ自力で飛ぶことは不可能です」
「雄大な大空は人間の心に訴える何かがありますし……。空がある限り、人間はこれからも飛ぶことへの夢を持ち続けるでしょう」
「空への夢を持ち続けることは大いに結構です。しかし、その前に、地に足のついた生活を大事にすべきですよ。ねぇ、鳥海さん……」
「オーホッホッホッホッホッホッホ……」
喪黒がいるネオン街の上空には、夜空を一人でさまよい続ける鳥海の姿が見える。
―完―
元スレ
喪黒福造「今こそ、鳥人間コンテストへの出場を目指してみませんか?」 窓際社員「えっ、いきなり何を言い出すんですか?」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1541232961/
喪黒福造「今こそ、鳥人間コンテストへの出場を目指してみませんか?」 窓際社員「えっ、いきなり何を言い出すんですか?」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1541232961/
「SS」カテゴリのおすすめ
「ランダム」カテゴリのおすすめ
コメント一覧 (5)
-
- 2018年11月08日 22:26
- 人をただ不愉快にする作品を量産して楽しい?
-
- 2018年11月09日 01:04
- ほんまそれ
誰も見ていない円盤95枚の産廃アニメに
ここまで必死にssを書くってなんかキモいな
-
- 2018年11月09日 01:21
- 書いてる本人が楽しんでるなら別にいいだろ
このss読んでる奴0人説あるけど
-
- 2018年11月09日 08:00
- う~~ん
たまに面白いものと面白くないものあるなあ
-
- 2018年11月09日 16:14
- 飽きてきたゾ