喪黒福造「あなたは伝説の怪盗として、世間の注目の的になれますよ」 女性公務員「何だか、わくわくしてきました……」
ただの『せぇるすまん』じゃございません。私の取り扱う品物はココロ、人間のココロでございます。
この世は、老いも若きも男も女も、ココロのさみしい人ばかり。
そんな皆さんのココロのスキマをお埋めいたします。
いいえ、お金は一銭もいただきません。お客様が満足されたら、それが何よりの報酬でございます。
さて、今日のお客様は……。
烏丸麗子(26) 市役所職員
【伝説の怪盗】
ホーッホッホッホ……。」
JR比企駅と、周辺の大型店舗。市街地を歩く通行人たち。道路を行く数々の車。
比企市役所。窓口の前に並ぶ列。ソファーに座る市民たち。市民たちは何かの手続きをしている。
窓口に、若い女性の公務員がいる。彼女は、ある老人を相手に何かを話している。
テロップ「烏丸麗子(26) 比企市役所職員・市民課」
麗子のモノローグ「私は、市役所の市民課で働く公務員だ……」
ある中年主婦を相手に、何かの手続きの手助けをする麗子。
麗子のモノローグ「市民課の仕事は多岐に渡っている。死亡届や婚姻届などの戸籍の手続き……」
「転入や転出とかの住民票の手続き……。また、国民皆保険に関する手続きなど……」
「市民の生活に直結した重要な仕事が多い」
新しい保険証を若者に渡す麗子。
麗子のモノローグ「私の仕事は、市民のために役に立っている。しかし、私は今の仕事に満足していない」
窓口にいる麗子。麗子の顔のアップ、彼女はうんざりしたような表情をしている。
麗子のモノローグ「なぜなら、公務員の仕事はつまらないからだ。従って、私は公務員の仕事が嫌いだ……」
麗子のモノローグ「仕事は定時で終わり、給料も身分も保証されている」
「世間の人たちは、公務員の私を勝ち組として扱ってくれるだろう」
ファミリーレストラン。店の中で、スパゲッティを食べる麗子。
麗子のモノローグ「しかし、私は今の自分に納得がいかない……」
住宅地を歩く麗子。彼女は自宅アパートの中に入る。
夜。アパート、麗子の部屋。液晶テレビの下のDVDプレーヤーに、DVDを入れる麗子。
液晶テレビの画面が、アニメの画像に切り替わる。画面に「グッドラック!ドリピュア」のタイトルが表示される。
テレビの画面。街の中に現れる黒っぽい怪物。何かのアイテムを使い、変身をする主人公の少女たち。
麗子(来た……!!来たっ……!!)
画面の映像。奇抜な色の髪形と、ドレスを身にまとった少女たちが、怪物と肉弾戦をする。
両手を握りしめ、食い入るようにテレビの画面を見つめる麗子。
麗子「よ、よしっ……!!やったっ……!!」
立ち上がり、思わず声を上げる麗子。
アニメは終わり、エンディングテーマが流れる。テレビの画面を見つめる麗子。
麗子(私もこの子たちのように、戦うヒロインに変身して活躍してみたいなぁ……)
テロップ「東京、新宿――」
夕方。「歌舞伎町一番街」の看板。歓楽街の中を行く大勢の通行人たち。
白黒混じりのゴスロリファッションを着た麗子が道を歩く。
麗子(うわ~~、わくわくするなぁ~~)
ホストクラブ「新宿事変」。ゴスロリ姿の麗子が、美形のホストたちに囲まれている。
麗子「アハハハハハ!!」
酒に酔った麗子は、ホストたちにお世辞を言われて上機嫌になっている。
麗子「え!?72万円払えって!?高すぎる!!今の私は、72万円なんて大金持ってないよ!!」
ホストA「じゃあ、身体で支払ってもらおうか!!」
ホストAが、麗子の身体を押し倒す。悲鳴を上げる麗子。
麗子「嫌っ!!やめて!!」
麗子たちの周りにホストたちが群がる。悪意のこもった表情で、ニヤニヤ笑うホストたち。
ホストB「お前の次は、俺にもさせろよ!!」
ホストA「おう、望むところだ!!」
ホストC「俺たちがたんと味わったら、こいつは薬漬けにして売り飛ばしてやろうぜ!!」
麗子「だ、誰か……。助けてええええっ!!!」
ホストAに組み敷かれたまま、涙目で叫ぶ麗子。
喪黒「おっと、そこまで!!」
ホストたちが麗子を襲おうとしていたその時……。例の男――喪黒福造が店の中に姿を現す。
ホストAが喪黒の姿に気を取られているすきに、麗子は喪黒の元へ駆け寄る。喪黒の左腕にしがみつく麗子。
ホストB「せっかくいいところなのに、邪魔すんじゃねぇよ……。おっさん……」
喪黒ににじり寄るホストたち。喪黒はホストたちに右手の人差し指を向ける。
喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」
ホストたち「ギャアアアアアアアアア!!!」
喪黒「お嬢さん、もう大丈夫ですよ。」
麗子が恐る恐る前を見ると……。異様に老化し、疲労困憊した状態でホストたちが床に横たわっている。
ホストたち「アーーー……。アーーー……。アーーー……」
白髪頭としわだらけの顔になり、うめき声を上げるホストたち。彼らは完全に廃人化してしまったようだ。
ホストクラブ「新宿事変」を出て、街を歩く喪黒と麗子。
麗子「あの、……。それにしても、あなたは一体……」
喪黒「私ですか?私はこういう者です」
喪黒が差し出した名刺には、「ココロのスキマ…お埋めします 喪黒福造」と書かれている。
喪黒「実はですね……。私、人々の心をお埋めするボランティアをしているのですよ」
麗子の目がみるみる涙でうるむ。喪黒の胸元にしがみつき、泣き崩れる麗子。2人を見つめる通行人たち。
BAR「魔の巣」。喪黒と麗子が席に腰掛けている。
麗子「さっきは、どうもありがとうございます……」
喪黒「いえいえ……。あなたのような人を救うのが、私の仕事なんです。なぜなら、見たところ……」
「あなたの心にもスキマがおありですよねぇ?だから、危険な歌舞伎町にわざわざ寄ったのでしょうなぁ」
麗子「ええ。そうですよ……。何しろ私は……」
身振り手振りを交え、今の自分の現状について話す麗子。
喪黒「ほう……。市役所職員のお仕事が嫌だとは……。市民のために役に立っていて、給料も待遇も安定している……」
「むしろ、喜ぶべきことですよ。それなのに、なぜ……」
麗子「そもそも私には、市民のために働きたいという気持ちなんか全くありません!」
「それに公務員の職業は、親に言われるまま、コネで採用されたに過ぎませんから!」
喪黒「そうですか……」
「私は自分の人生を、自分らしく生きていないんです!」
喪黒「烏丸さん。あなたのお悩み、よーーく分かりました……」
「自分で考えて、自分で決める人生を送らず……。組織の中に埋もれ、ただ働くだけで飼い殺された人生を送る……」
「それじゃあ、あなたにとっては面白くないでしょうなぁ……」
麗子「そうですよ!!『一体、私は何のために生きているのか』と言いたくなりますよ!!」
喪黒「烏丸さんが奇抜なファッションをしたのも、歌舞伎町に足を踏み入れたのも……」
「日ごろのストレスを発散するために取った行動……。そうでしょう!?」
麗子「はい」
喪黒「周囲に合わせるだけの自分……。平凡でありながら退屈な日常……」
「それらからおさらばして、変身願望や非日常への憧れを味わってみたい……というわけですよね!?」
麗子「その通りです!!」
喪黒「分かりました。あなたのお悩みを解決するため、私が何とかしましょう」
テロップ「1週間後――」
ある駅の西口。腕時計を眺めながら、喪黒との待ち合わせをする麗子。麗子の前に姿を現す喪黒。
喪黒「やぁ、烏丸さん」
喪黒「烏丸さんの変身願望と、非日常への憧れを満たすためのものですよ……」
街の中を歩く喪黒と麗子。駅から10分ほど歩いた先にマンションがある。マンションの前に立つ喪黒と麗子。
喪黒「さあ、入りましょう」
マンションの中に入り、エレベーターに乗る喪黒と麗子。ある部屋のドアの前の2人。喪黒は、ドアの鍵を開ける。
喪黒「烏丸さん。この部屋で着替えを済ませてください。私はドアの前で待っていますよ」
部屋の中には、クローゼットと大型の棚がある。麗子がクローゼットの中を開けると……。
クローゼットの中に入っているのは……。黒色のゴスロリドレス、黒色のブーツ、黒色の手袋、黒色のリボン、黒い仮面……。
麗子「こ、これに着替えろだって……!?」
外のドアの前で、麗子を待つ喪黒。玄関のドアが開くと、そこには黒ずくめの衣装を着た麗子が立っている。
麗子の目元には、黒色の仮面が装着されている。
喪黒「ホーッホッホッホ……。よく似合っていますよ。烏丸さん」
中には様々な小道具がある。ハングライダー、ロープ、ピッキング、ガラスカッター……。
麗子「喪黒さん。私はこんな恰好で、どんなことをやるんですか!?」
喪黒「烏丸さん。あなたはこれから……。どこかの美術館に忍び込んで、何かの美術品を盗むんですよ!!」
麗子「えっ!?それって犯罪ですよね!?」
喪黒「大丈夫です。私の言った通りにすれば、烏丸さんは絶対に逮捕されませんから」
麗子「じゃあ……。これがうまくいけば、私は……」
喪黒「あなたは伝説の怪盗として、世間の注目の的になれますよ。どうです、面白いでしょう!?」
麗子「何だか、わくわくしてきました……」
夜。ある美術館。電気が消えて暗くなった館内に、ベルの音がけたたましく鳴り響く。
黒づくめの衣装と仮面を身にまとった麗子が、絵画を右手に持って走っている。麗子とともに走る喪黒。
喪黒「烏丸さん!こっちです!」
刑事「君たちは完全に包囲されている!!」
ハングライダーを背負った麗子が、絵画を持ちながら空を飛ぶ。喪黒もハングライダーを背負って、彼女につきそう。
夜空の彼方へ飛び去る麗子と喪黒。唖然とした表情で、2人の姿を見つめる刑事や警官たち。
マンション。一連の犯行を終えた麗子と喪黒が、例の部屋の中にいる。部屋の隅には、美術館から盗んだ絵画がある。
麗子「さっきは、とっても楽しかったです!!生きている実感を心から味わいました!!」
喪黒「2度目からは……。私の指導がなくても、あなたは怪盗として仕事をやりこなせそうですねぇ」
麗子「スリル満点で、もう癖になりそうです!喪黒さん、私、これからも世間を騒がせてやりますから!!」
喪黒「そりゃあ、結構なことです。ですがねぇ、あなたには私と約束していただきたいことがあります」
麗子「約束!?」
喪黒「はい。烏丸さん、怪盗になるのは週1回だけにしておいてください」
「まずは、普段のお仕事や日常生活を大切すべきです。変身願望や非日常は一時的なものですから……」
「いいですね、約束ですよ!?」
麗子「わ、分かりました……。喪黒さん」
麗子「喪黒さん!見てください、これ!!」
バッグから新聞を取り出す麗子。新聞の社会面には、黒づくめの怪盗による美術館荒らしが大きく報道されている。
喪黒「首都圏内を股に掛ける神出鬼没の女怪盗……。マスコミや警察の関係者は、あなたを『カラス姫』と呼んでいますねぇ」
麗子「『カラス姫』なんてダサいネーミングだ、と思っていましたけど……。今では、その名前がすっかり気に入っています」
喪黒「あなたの変身願望と非日常への欲求は、これで間違いなく満たされたはずです」
麗子「ええ。もちろんですよ!」
喪黒「烏丸さんが満足していただいて何より……。まあ、ところで私との約束は守っていますよねぇ」
麗子「そ、そりゃあ……。もう……」
ある温泉旅館、宴会場。比企市役所の公務員たちが、浴衣姿で宴会を開いている。麗子も宴会に加わっている。
カラオケセットの側で、マイクを持ち演歌を歌う管理職の中年男性。拍手をする公務員たち。うつろな表情の麗子。
カラオケは、麗子の番になる。緊張した様子でマイクを持つ麗子。
公務員たち「何か歌ってくれよーー!!」「そうだーー、俺たちは待ってるぞーー!!」
麗子の頭の中に、怪盗『カラス姫』としての自分の姿が思い浮かぶ。
麗子(私は……、私だ……。私のやり方、私の生き方でいくんだ……。あの怪盗『カラス姫』のように……)
開き直り、何かの歌を熱唱する麗子。きょとんとした顔で麗子を見つめる公務員たち。
麗子のモノローグ「慰安旅行での宴会で、私はアニメソングを堂々とカラオケで歌った」
ある日の昼、比企市役所。一人で弁当を食べる麗子。遠くから公務員たちが麗子を指差し、内緒話をする。
公務員たち「烏丸さんって、オタクだったんだ」「キモーーイ」「あいつ頭おかしいから、関わるのやめようよ」
麗子のモノローグ「オタクバレした私は、職場の中ですっかり孤立してしまった……」
夕方。JR比企駅。プラットフォームから出発する電車。仕事を終えた麗子が、電車に乗り込んでいる。
麗子(傷ついた私の心と自尊心を、立ち直らせてくれるには……。あれをやるしかない……)
麗子のモノローグ「これ以降……。私が怪盗になるのは、週1回だけではなくなっていった……」
ある美術館。怪盗『カラス姫』の衣装をした麗子が庭にいる。
美術館の大型窓ガラスをガラスカッターで切り、建物の中に忍び込む麗子。
絵画を持った麗子が、ハングライダーを背負って夜空を飛ぶ。満たされた表情の麗子。
比企市役所。いつも通り、窓口で市民を相手に仕事をする麗子。
麗子(私は、この窓口にいる凡人とは違う……!私は特別なんだ……!)
(私は世間を股に掛ける女怪盗で、警察や法律も全く手出しができない存在なんだ……!)
昼休み。室内で、テレビを見つめる中年の男性公務員たち。部屋の中に入る麗子。
公務員A「怪盗『カラス姫』か……。最近、なぜかよく出没するようになったなぁ」
公務員B「泥棒やって、警察に追われて……。何が楽しいのか。まさに大バカとしか言いようがないよ!」
麗子(そんなことないっ!!あなたたちに私の……、いや、怪盗『カラス姫』の何が分かるんだ!!)
美術館。絵画を持った怪盗『カラス姫』こと麗子が、警官たちに追われている。
屋上から、美術品を持った麗子がハングライダーで夜空を飛ぶ。充実した表情の麗子。
麗子(やった……。私は今日も、警察に勝ったんだ……!!)
いつの間にか……。彼女の側に、ハングライダーを背負った喪黒が並んで飛んでいる。
喪黒「烏丸麗子さん……。あなた約束を破りましたね」
麗子「も、喪黒さん……!!」
喪黒「私はあなたに言ったはずです。怪盗になるのは週1回だけにしておけ……と」
「それにも関わらず……。ここのところ、ほぼ毎日、怪盗『カラス姫』が新聞を賑わせていますよねぇ」
麗子「ええ。最近の、連日に渡る美術館荒らしは……。全部、私の仕業ですよ」
喪黒「私との約束を破ったことを、潔く認めるのですね……」
麗子「はい。私は決めたんです!!私をつまはじきにした社会や世間に、復讐をしてやろうと……」
喪黒「ほう……、それがあなたの答えですか。今のあなたはもう……、怪盗になる資格がなくなりました!!」
喪黒「約束を破った以上、あなたには罰を受けて貰うしかありません!!」
喪黒は麗子に右手の人差し指を向ける。
喪黒「ドーーーーーーーーーーーン!!!」
麗子「キャアアアアアアアアアアア!!!」
喪黒のドーンを受け、ハングライダーを背負った麗子がバランスを崩す。麗子の手から滑り落ちる絵画。
強風に煽られたまま、麗子は……。遠くへ、遠くへと飛ばされていく。ある住宅街、道路の上に叩きつけられる麗子。
麗子の全身が光り輝く。『カラス姫』の姿から、スーツ姿に戻る麗子。彼女が背負っていたハングライダーも消える。
麗子「い、痛た……。ああっ……。私、元の姿に戻ってる……」
起き上がり、周囲を見渡す麗子。
麗子「そういえば、いつの間にか比企市に帰ってる。そうだ、早くアパートに戻らなくちゃ……」
麗子が住宅街を歩き、自宅アパートの方へ向かうとそこは……。
スマホを操作する麗子。
麗子「そうだ、親に電話しよう!!今日は実家に泊まることにして……」
麗子の耳元から聞こえたスマホの音声は……。
スマホ「お客様がおかけになった電話番号は、現在使われておりません……」
麗子「実家に電話がつながらない……。私の住むところも、実家も両親も……、何もかもなくなっている……」
「じゃあ、私は……。私の存在も、今までの日常も……、全部消えてしまったってこと!?」
スマホに握りしめたまま、麗子は地べたへと座り込む。目の焦点が定まっておらず、放心状態となった麗子。
ある美術館の前にいる喪黒。
喪黒「世の中にいる大人たちの大半は……、思い通りの人生を生きられず、挫折した人たちで溢れかえっています」
「しかも……、当たり前の日常には退屈さも付きものですから、人々は心の奥にうっ屈した感情を抱えています」
「だから、変身願望や非日常への憧れを誰もが持っていますし……。それらの物語がたくさんあるのも当然でしょう」
「しかしながら……。変身願望や非日常が魅力を持つのは、当たり前の日常が保障された上でのことですから……」
「日常がなくなった世界で、『透明な存在』に変身して……。果たして、どうやって生きていくつもりですかねぇ?烏丸さん……」
「オーホッホッホッホッホッホッホ……」
―完―
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喪黒福造「あなたは伝説の怪盗として、世間の注目の的になれますよ」 女性公務員「何だか、わくわくしてきました……」
http://hebi.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1537378530/
喪黒福造「あなたは伝説の怪盗として、世間の注目の的になれますよ」 女性公務員「何だか、わくわくしてきました……」
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でもホスト達に対してのドーンはただ気絶させるだけが正しいと思う
このホスト達が何らかの約束を破っていたのならともかく