【時計】クロノグラフ機能とは?その意味や歴史をわかりやすく説明!

沢山のインダイヤルが機械的な凄味を感じさせるクロノグラフ。

時計の世界では「クロノグラフ」は「ストップウォッチ機能を兼ね備えた高精度の懐中時計や腕時計」「時間を高精度で計り、記録するための機器」の事を意味しています。

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この記事では、クロノグラフについて徹底的に解説していきます

クロノグラフの意味

「時間」を意味する「クロノ」は時を司る神クロノスに由来する古代ギリシャ語で、「グラフ」は「筆記・描写」を意味するグラフェに由来します。

この言葉の合成から生まれたクロノグラフは文字通り、時を精密に切り取り記録出来る機能を兼ね備えています。

ちなみに似た言葉にクロノメーターがあります。どちらもクロノは時間の事でメーターは測る、つまりクロノメーターとは、精密に時を刻み続ける時計を表す言葉です。クロノメーターの連続性とクロノグラフの積算性が大きな違いといえるでしょう。

歴史に残る2つのクロノグラフ

フランスのルイ18世をご存じですか?ルイ18世はフランス革命で命を散らしたルイ16世の弟で、パリに逃れて亡命生活を送りナポレオン没落後にフランスに帰還し王政を復活させた人物です。このルイ18世は競馬を見るのが大のお気に入りでした。

レースのスタートからゴールまでに掛かった時間を正確に知りたがる王の為に、時計技師ニコラ・リューセックが雇われ、1821年、商用として最初のクロノグラフが作られます。

こちらのクロノグラフは文字盤が回転し、針に取り付けたペンをスタートと共に文字盤に下ろすとペンが線を引いていき、その線の長さで掛かった時間を表す仕組みでした。

ニコラ・リューセックにより作られた競馬の記録用時計はルイ・モネの天文時計が発見されるまで長らくクロノグラフの元祖と言われていました。

もう1つはルイ・モネが1816年に製作した1/60秒まで計測できる天文時計です。こちらは2013年に発見された200年前の天体観測の携帯時計で現在のストップウォッチの元祖と言われています。

どちらも永遠の時の営みから、出来るだけ細かい時間を計り取ろうとする願いが込められ、現在にその形を留めています。

クロノグラフの発達

1776年ジュネーブの時計師ジャン-モイズ・ブーゼがクロノグラフの先駆けとなるインディペンデント・セコンド機構を発明。

1831年にはオーストリアのヨーゼフ・タデウス・ウィナールによってスプリット・セカンド機構が発明。

更に1844年にはスイスのアドルフ・ニコスによって針のリセット機構が発明されるなど、少しずつ現在の形のクロノグラフに近い構造へと進化し、1862年には初のリセット機構を備えたクロノグラフの懐中時計が開発されるようになりました。

19世紀末には、ロンジンやタグホイヤーなど様々なメーカーがクロノグラフの懐中時計を売り出し始めます。

19世紀という時代は鉄道の発達によって、分単位で時間を考えていく日常が少しずつ浸透していく時代でもありました。

その後自動車の発明や飛行機の発明、近代オリンピックの開催、戦争。急速に移り変わる時代の中、速度の計測や、燃料や飛行距離の割り出し、正確な時間の記録を残すなど、様々な面で正確な計時が求められるようになり、時計の進化も加速、そして大戦最中の1915年、ブライトリングが世界初の腕時計クロノグラフを発表。

このように需要の高まりにより生産数も生産技術も飛躍的に伸びていくことになります。

クロノグラフの秒針

クロノグラフに慣れていない人が時計を見ると、秒針が動いていない事に違和感を覚えます。

普通の時計では秒針として捉えてしまう細い針はクロノグラフ針でベゼルやダイヤルに細かく刻まれた目盛りを読みやすくするために、通常より長く細くデザインがされています。

このクロノグラフ針は通常12時の位置で静止したままで、必要な時にすぐに計測が始められるようになっています。

ではクロノグラフには秒針が無いのかというと、こちらは読み取り間違いを避ける目的で小文字盤に配置されています。

クロノグラフの文字盤

クロノグラフでは、人為的に切り取って測定しようとする時間の量を表示する為に、通常の文字盤とは別に、クロノグラフ針のための小文字盤が主文字盤内に配置されています。

主文字盤に更に配置されている小文字盤を「インダイヤル」と言い、これが2つのものは「二つ目」3つあるものは「三つ目」と呼ばれています。

クロノグラフの一般的なインダイヤルは、12時間積算計、30分積算計、そして通常の時刻を示している秒針が周回していくインダイヤルの三つで構成されています。

ケース外周

リュウズの上下にはそれぞれクロノグラフ針を発停させたり、復針させる為の「クロノグラフボタン」が配置されています。

これらインダイヤルや回転する指針の数、そしてクロノグラフボタンなど独特なメカニカルで重厚な雰囲気がクロノグラフの独特な魅力を醸し出し、デザインの堅牢さと合わさり、人気を生んでいます。

クロノグラフの基本構造

クロノグラフの基本構造は「抜きん出た性能の高さを誇るクロノグラフの名門中の名門」と詠われるパルジュー社のパルジュー23を元に説明を行いたいと思います。

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画像引用元: WatchesULike

クロノグラフ機構の要はコラムホイール(ピラーホイール、ラチェットホイールなどで呼ばれる事もあります)という、切り込みの入った柱と歯車の二段構造になった部品です。

クロノグラフ発停ボタンを押すと、コラムホイールが一歯回転します。すると、コラムホイールの山にブレーキレバーが乗り上げ、ブレーキが外れます。

コラムホイールの谷にカップリングクラッチの先端部が入り込みトランスミッションホイールがクロノグラフホイール(秒積算車)と噛み合います。

ここで復針規正レバーが作動しレバーバネに引っ掛かって止まり、クロノグラフホイールブレーキレバーが動いて、インターミディエイトホイール(クロノグラフ中間車)がミニッツレコーディングホイール(クロノグラフ30分積算車)とクロノグラフホイールに噛み合い動力が伝わって、計測が行われます。

もう一度発停ボタンを押すと、コラムホイールが一歯回転し、今度はカップリングクラッチがコラムホイールに乗り上がり、トランスミッションホイールとクロノグラフホイールの連絡が解かれます。

そしてクロノグラフホイールはコラムホイールの谷にクロノグラフホイールブレーキレバーが落ちる事で完全に停止します。

この状態のまま再び発停ボタンを押すと計測がスタートします。リセットボタンを押すと、リセットハンマーが動きます。

リセットハンマーのアームでスライディングギアスライドさせインターミディエイトホイールを外し、クロノグラフホイールとミニッツレコーディングホイールを切り離し同時に、スライディングギアはクロノグラフホイールを止めているブレーキレバーを外します。

最後にリセットハンマーがハートカムこのリセットの動きは一瞬で行われます。

フライバック(ダト・グラフ)

普通のクロノグラフでは針を停止させた後、リュウズの下にあるクロノグラフ復針ボタンを押して、針を0の位置まで戻してから再度その機能を使用する事になりますが、この「停止→復針→発進」という三段階の操作を1度の操作で行う機構を持ったクロノグラフ、それが「フライバック」です。

フライバックでは、大抵リュウズの下にあるクロノグラフ復針ボタンを押して1度に全て復針させる事が出来ます。

このボタンを押すと、フライバックレバーがクロノグラフホイールのハートカムを押さえつけ、クロノグラフ秒針と30分針を瞬時に0に戻します。

ボタンから指を離すと、クロノグラフホイールが再び動き始めます。この機構はA Lange & Soehne ダト・グラフなどに使用されています。

クロノグラフの多彩な機能

クロノグラフの文字盤は一種類だけではありません。様式がいくつかあり、その機能の違いによって、文字盤も変わってきます。文字盤の種類には様々な種類があります。

テレメーター

光と音の速度の違いを利用して、2地点の距離を計測する事が出来ます。

タキメーター

一定距離にかかった時間を計測し、時速何km のスピードが出ているか計測出来ます。

アズモメーター

主にドクターウォッチで使用されクロノグラフの特別な目盛りによって呼吸の回数を計測します。

プロダクション・カウンター

生産数を測る為に役立ちます。一個当り生産時間が60秒を超えない場合、生産スケールUは一時間あたりの率を示します。

パルスメーター

1分あたりの脈拍数を簡単に知る事が出来ます。

タイドインディケーター・カウンター

潮の満ち引きをグラフにしたものです。

スプリットセコンドクロノグラフ

クロノグラフの王者と呼ばれる精密で複雑な機構です。従来のクロノグラフと同じ原理に基づき、こちらに中間タイムを計測して表示する機能を加えています。

この機能を使う事で、例えば二人の走者の比較などが可能になります。

停止状態では、秒針がもう1本の針と重なっていて、クロノグラフを起動すると、この2本の針が同時にスタートします。

スプリットセコンドプッシュボタンを1度押すと、1本はその瞬間停止し、もう1本はそのまま進み続けます。

こうして中間タイムの読み取りを可能にし、クロノグラフ針は作動し続けます。時計の複雑機構の中でも最も製作が難しい機構の1つです。

様々なシーンで時を切り取り積算するクロノグラフは歴史の歩みと共に様々な時を計り続けています。