【このすば】カズマ「どうしたダクネス、もう限界か? ワレメが濡れてヒクついてきたぞ」 ダクネス「ああ……見ないでくれカズマ」
- 2017年04月30日 14:10
- SS、この素晴らしい世界に祝福を!
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めぐみん「……朝っぱらから何をしているんですか二人して」
カズマ「おはようめぐみん。見て分からないか? ダクネスの筋トレを手伝っていたんだ」
めぐみん「分からないから聞いたんですが……てっきり特殊なプレイの最中かと思いましたよ」
ダクネス「そんな筈がなかろう。ここ暫くのゴタゴタで鍛錬を怠っていたから、遅れを取り戻すべく奮闘していたのだ」
めぐみん「はあ、そうですか。しかしそれならばもっと普通に出来ないのですか?」
ダクネス「いや、ただ漫然と鍛えても効果は薄いからな。より厳しいトレーニングを課す代わりに、カズマにご褒美を貰いながらやっていたのだ」
めぐみん「それは仲睦まじくて何よりですが……アクアはどうしました? 朝食の準備が出来たので、皆を呼びに来たのですが」
めぐみん「こんな時間にですか? まだ早朝ですし、受付も無人なのでは?」
ダクネス「ああ、だから掲示板に貼り出してある中から、好条件のクエストを探し出すと意気込んでいたぞ」
めぐみん「へえ、アクアがそんなにやる気を出すなんて珍しい。どんな心境の変化でしょう」
カズマ「しっかしあいつもバカだなあ。ちょっとぐらい条件の良いクエストを持ってきたからって、俺が働くとでも思ったのかねえ」
ダクネス「いや、馬鹿はお前だ」
めぐみん「働けクズニート」
めぐみん「……まさに絵に描いた様な駄目人間ですね」
ダクネス「ふう、本当に仕方のない奴だな。やはり我等が責任をもって、この男を真人間に更生させねばならんな」
カズマ「それより、もう朝メシ出来たんだろ? アクアの奴いつ帰って来るか分かんねえし、先に食っちまおうぜ」
めぐみん「駄目ですよカズマ。ダクネスが実家から戻って久々に全員揃ったんですから、みんなで一緒に食べましょう」
ダクネス「うむ、そうだな。私も皆と食卓を囲むのは久方振りだ。やはり食事は気心の知れた仲間達と共に、楽しく過ごしたい」
カズマ「ちぇー、はいはい。悪うござんしたね」
めぐみん「分かりました。任せて下さいダクネス」
カズマ「おいコラお前達! 人様を性犯罪者扱いとはいい度胸だな。俺が覗きなどと卑劣な真似をすると思ったか?」
ダクネス「ほう、前科者が大層な口を利くではないか」
めぐみん「余計な嫌疑をかけられたくなかったら部屋でおとなしくしてて下さい。なにちゃっかり付いていこうとしてんですか」
カズマ「勘違いするな……僭越ながらこのサトウカズマ、ララティーナお嬢様のお背中を流して差し上げようかと思い至った次第でございます」
ダクネス「ラッ、ララティーナと呼ぶな! めぐみん、死なない程度に痛め付けて構わんから、この男を大人しくさせておいてくれ。頼んだぞ」
めぐみん「大丈夫ですよダクネス。死んでも後でアクアに蘇生させてもらいますから」
ダクネス「そうか、なら一安心だな」
カズマ「……ねえ、君達酷くない?」
カズマ「こうして俺は、仲間達に虐げられながらも日々を強く生きるのであった……ちょむすけ、俺の味方はお前だけだよ」
ダクネス「人聞きの悪い事を言うな!」
めぐみん「自業自得です」
こっから本編です
時系列はこのすば二期の四話と五話の間
ダクネスの見合いが破談になって 屋敷に帰還した直後を想定して書いてます
後半に少し真面目なシーンがありますけど 基本的にこの調子で進むのでノリの合わない方は回避推奨します
ちょっと長いんでガンガン投下しますが レスくれたら嬉しいです
実はさっき立てたスレがすぐに落ちて 新しく同じスレ立て直しました
カズマ「真実の宝玉?」
めぐみん「アクア、何ですかそれは?」
アクア「クエストよクエスト。伝説の秘宝『真実の宝玉』を入手せよ! さっきギルドで探してきたの」
ダクネス「ほう、探索クエストとは珍しいな」
アクア「でしょー? カズマさんてば冒険者のくせに冒険嫌いなヒキニートだから、貧弱なカズマにもこなせるクエストを見つけるのに苦労したわ」
カズマ「おいコラ駄女神、貧弱って言うな。お前は頭が貧弱なくせに」
アクア「ひっどーい! カズマが私の事馬鹿って言ったー!」
カズマ「馬鹿だなんて一言もいってませーん」
アクア「じゃあ美人で素敵な女神様だって言ったー!」
カズマ「てめえ、どさくさに紛れて何図々しい事言ってやがる!」
カズマ「図星って何だよ! 俺は貧弱じゃねえ。胸が貧弱なお子様は黙っててもらおうか」
めぐみん「なっ!? 言うに事欠いてなんたる暴言! 訂正しなさいカズマ。私はまだ成長期なんですから、これから伸びるんです!」
カズマ「ほー、ありもしない未来の可能性に縋って必死だな。大体その理屈なら、同い年のゆんゆんはどうなんだよ」
めぐみん「せっ、成長には個人差があるんです!」
カズマ「個人差ねえ……」ニヤニヤ
めぐみん「ぐぬぬ……」
カズマ「何だよダクネス、随分と乗り気だな」
ダクネス「ああ、久々のクエストだからな……正直胸が躍る」
カズマ(そっか、ダクネスが帰って来てから初のクエストになる訳か。そういや全員でクエストに行くのも久しぶりだな)
(胸が躍る、か。それにしてもこいつ、相変わらず凶悪なお○ぱいしてやがるな。けしからん……ハアハア)
ダクネス「その、カズマ。あまり胸をジロジロ見ないでほしいのだが……」
カズマ「ごッ、ごめん! 悪気はないんだ」
カズマ(やべー、つい見入っちまった)
アクア「やだ、あんなインキュバスみたいないやらしい目つきで視姦されたら妊娠しちゃいそう。こわい、怖いわ」
カズマ(くっ、こいつら好き放題言いやがって……だが、この話を続けるのは分が悪い。いつまでもネチネチと嫌味を言われ続ける前に撤退しなくては)
カズマ「よーし、それじゃあギルドに行くとするか! モタモタしてたら他のパーティーに先を越されちゃうからな。みんな急ごうぜ!」
めぐみん「うわー、ここまで露骨な話題転換とか……必死すぎてキモイです」
アクア「カズマってば普段は強気なくせに、こういう時はヘタレるのよね。やーい、ヘタレー!」
カズマ(無視だ無視! 風になれ俺!!)
【 サ ト ウ カ ズ マ は に げ だ し た ! ! 】
めぐみん「ああカズマ! ちょっと待ってくださいよ!」
アクア「ちょっと二人とも、私を置いて行かないでー!」
ダクネス「……やれやれ」
受付嬢「あらカズマさん達、お揃いでどうしたんですか?」
カズマ「やあ、今日も可愛いね。君の顔が見たくて来ちゃったよ」
受付嬢「あら、嬉しい事を言ってくれますね。うふふ」
アクア「めぐみん聞いた? カズマさんの口から、顔に似つかないセリフがサラっと出てきたんですけど?」
めぐみん「きっと背伸びしたいお年頃なんですよ。生暖かい目で見守ってあげましょう」
カズマ「そこの二人うるさい!」
受付嬢「ええ、どのクエストでしょうか?」
ダクネス「真実の宝玉についてなのだが」
受付嬢「はい、承りました。ええと、クエストの達成条件は『迷いの森』にあるという『真実の宝玉』の入手。報酬金額は一千万エリスです」
カズマ「いッ、一千万!?」
めぐみん「素晴らしい、それなら是非我々で請け負うべきです!」
アクア「そうよそうよ!」
カズマ「ちょっと待て!」
めぐみん「普段は楽して大金を稼ぎたいとかぬかしてるくせに、食いつきが悪いですね」
カズマ「あのなあ、良く考えてみろ。アイテム一つ手に入れるだけで一千万なんて、何か裏があるに決まってるだろ?」
アクア「例えば?」
カズマ「そのアイテムを守るガーディアンが凄く強かったり、道中凶暴なモンスターがわんさか湧いてきたりとか……」
ダクネス「その程度の危険は、当然織り込み済みだ」
めぐみん「そうですよカズマ。虎穴に入らずんば虎子を得ず。例えどんな敵だろうと、私の爆裂魔法で吹き飛ばしてやります!」
アクア「全くカズマってば臆病なんだから」
カズマ「うるさい黙れ。俺は慎重派なんだ」
ダクネス「ならカズマは、このクエストを受けるのに反対なのか?」
カズマ「そうじゃない、報酬金額だけで即決するのは駄目って事だ。決めるのはきちんと得られる情報を吟味してからにしよう」
めぐみん「ふむ、正論ですね」
ダクネス「なるほど、確かにそうだな。久々のクエストで少々気が逸ったか」
(つーか、そもそもこいつ等が一番の不安要素なんだよ。あまりにも能力がピーキー過ぎて)
(魔王軍の幹部ですら倒せる反面、雑魚モンスター相手に全滅しかけるからな。俺がきちんとフォローしてやらないと)
(くっ、なぜ俺がこんな苦労をせねばならんのか。ああ、胃が痛くなってきた)
カズマ「何でもねーよ。お前は悩みがなさそうで、羨ましいって思っただけだ」
アクア「むー、失礼しちゃうわ。私にだって悩みぐらいあるんだから」
カズマ「ありゃ、意外だな。ちなみにどんな悩みだ? 試しに言ってみろ」
アクア「今日のお昼は何を食べようかなーとか、今夜の晩酌は何にしようかとか。悩みが多すぎて大変なんだから」
カズマ「ヘエ、ソイツハタイヘンデスネ……」
アクア「でしょー? 他にも欲しい服とかアクセサリーとか、悩みの種が尽きないのよ」
カズマ「……俺はお前という悩みの種のせいで大変だよ」
(ニートか? 生前ニートしてたのが悪かったのか? ニートとはそれ程罪深き所業だというのか?)
(おお神よ、我の罪を赦したまえ。ついでに働かずに遊んで暮らせる安寧な引き篭もり生活を与えたまえ!)
(つーか、よく考えたら神様はコイツじゃねーか……御利益なさそう。いや寧ろ貧乏神とか疫病神の類じゃねえのかコレ?)
カズマ「お前達はもう少し、俺の苦労の何割かでも味わうべきだと思ってな」
めぐみん「まあまあカズマ。貴方が居るから私達は安心して全力を出せるんですよ?」
ダクネス「うむ、その通りだ。頼りにしているぞ、リーダー」
カズマ「そ、そうか?」
アクア「やだ、カズマさんてばちょろーい!」
カズマ「お前はいっつも一言多いな!」
アクア「えっへん」
カズマ「褒めてねえよ!」
(まあ、しゃーねーか。寄せられた信頼に応える為にも、自分に出来る最善を尽くさないと……俺ってちょろいなあ)
カズマ「ところで『迷いの森』って初めて聞くけど、どんな所なんだ?」
ダクネス「知らないのかカズマ?」
カズマ「うん」
アクア「あ、私も知らない」
「それほど広くありませんが、年中霧がかかっていている為に、迷い込んだら出られないともっぱらの噂です」
カズマ「へー、そんな近くにあるのに、全く聞いた事なかったなあ」
ダクネス「まあ、アクセルからは街道が通っているし、森の中に迷宮や遺跡がある訳でもない。わざわざ足を踏み入れる物好きもいないだろう」
カズマ「アクセルから近いって事は、そんなに手強いモンスターはいないのか?」
めぐみん「ええ。ですが視界の効かない霧の中での戦闘となると、それなりに苦戦するでしょうね」
受付嬢「えーと、それが依頼主からの情報によりますと、使用者は相手の心を読む事が出来るそうです」
カズマ「相手の心を読む……というと、あの嘘を判別する魔道具みたいな?」
受付嬢「用途は似通ってるけど、完全な上位互換と言うべきでしょうか」
カズマ「上位互換?」
受付嬢「あの魔道具は『嘘を付いてるか否か』の判別しか出来ませんから、相手に沈黙されると効果がありません」
「でも真実の宝玉は例え相手が黙秘していても、心の奥底にある本心を見抜く事が出来るマジックアイテムなんだそうです」
カズマ「ほー、そりゃスゲー」
ダクネス「確かにそんな強力な魔道具があるとは、俄には信じがたいな」
カズマ「おい、どうしたんだよ二人とも? 確かに凄いとは思うけど、そこまで驚く程の物か?」
アクア「へ? なになに?」
ダクネス「いいかよく聞けカズマ。これから語る事はあくまで仮説にしかすぎないが、これがもし事実だとすればとんでもないことになるのだぞ」
カズマ「とんでもない事?」
「ましてや同様の事を、国家間首脳会談の様なもっと大きな場で行使すれば、世界のパワーバランスすら崩しかねない」
カズマ「ま、マジか?」
ダクネス「無論、そのような場に魔道具を持ち込むのは御法度だが、もしその魔道具が魔力探知に対する耐性や隠密性を備えていたとしたらどうだ?」
カズマ「……裏で隠れて、やりたい放題って事か」
カズマ(権力者ってのは大抵どの世界でも例に漏れず、人に知られて困る秘密を沢山抱えてるもんだしな)
ダクネス「あくまで私の推考だが、読心能力が未知数な以上、最悪そういった使用方法も有り得る。杞憂であればいいが看過はできん」
カズマ「というと?」
めぐみん「そうですね……窃盗団や盗賊団などの構成員を捕縛出来たなら、尋問や拷問の手間無くアジトやメンバーの詳細な情報を入手できるでしょう」
「また、敵国のスパイや魔王軍の幹部を生け捕りにすることができれば、そこから得られる情報の価値は万金に値します」
ダクネス「なるほど、使い方次第では万の軍勢にも匹敵する戦力となるな」
「特に、謎に包まれた魔王の詳細……もしその実態や弱点を探る事が出来たなら……」
めぐみん「大袈裟ではなく本当に、人類の命運を左右する切り札となるかもしれません」
「まあ、あくまでそういった可能性がある、というレベルの話ですが」
ダクネス「うむ。魔抵値でレジスト可能な魔道具であれば脅威度は下がるし、これ以上は実物を見ない事には判断しかねる」
(この世界の住人の常識と照らし合わせても、規格外の強力なマジックアイテム、か)
(うーん、なんか引っ掛かるなあ……強力すぎる、チートアイテム……あれ!? それってまさか……)
受付嬢「はい。ギルドに対する不正行為が発覚すれば、相応のペナルティを受けますし、虚偽のクエストである可能性は低いと思います」
ダクネス「そのリスクを冒してまで、依頼を捏造するメリットはない、か……ならば魔道具の存在が明るみに出た経緯について思索すべきか」
めぐみん「考えられる可能性としては、高名な魔道具職人が作製に成功したか……」
ダクネス「あるいは何者かが極秘に隠匿していた物が流出したか……いずれにせよこの近年の話だろうな」
めぐみん「同感です。それ程強力な魔道具が、今迄人々の噂に挙がらなかったのは不自然ですからね……ところで」
受付嬢「なんでしょうか、めぐみんさん?」
めぐみん「依頼主の情報は聞けますか?」
受付嬢「すみません、ギルドの規約でお話するのは無理なんです」
ダクネス「ギルドには守秘義務があるからな。依頼主が情報の開示を許可していない以上、諦めるしかないだろう」
めぐみん「そう、ですね。出来れば依頼人から詳細な情報を得たかったのですが……」
(しかし誠に遺憾なのだが、俺には非常識な能力を持つチートアイテムについての心当たりがある)
カズマ「おいアクア、ちょっと来い」
アクア「何よもう、カズマってば」
カズマ「いーから来い……真実の宝玉って、お前が転生組に持たせた神器じゃないのか?」
アクア「へ? なんで?」
カズマ「今の説明聞いてたろ? 本来この世界に存在するはずのないチートアイテムったら、真っ先に神器が思い付くだろうが」
アクア「おお! 言われてみれば確かに」
カズマ「先に気付けよ! つーか神器はお前の管轄だろ、覚えてねーのか?」
アクア「だって今迄どれだけの転生者をこの世界に送り込んだと思ってるのよ。そんなの一々覚えてないわ!」
カズマ(そうだった……こいつはミツルギの事すら覚えてなかったし、三歩で忘れる鳥頭だ)
アクア「やーいバカズマ!」
カズマ「てめえッ! 今なんつったゴるァッ!!」 ← マジギレ
アクア「ひゃんっ、か、カズマが自分で馬鹿だって言ったんじゃない」
カズマ「己の不明を恥じただけで、お前にバカズマ呼ばわりされる謂れはないわボケェっ!!」
アクア「いたい! 痛い! カズマさんやめてえ~!!」
めぐみん「カズマ、女性に手を上げるのは感心しませんよ」
ダクネス「そうだぞカズマ、手荒な真似はよせ」
めぐみん「まあ、分からなくはないですが」
ダクネス「ああ、うん。そうだな」
アクア「ちょっと二人とも! 何で私を擁護してくれないの!? やだ、暴力はんたいーー!!」
カズマ「うるせえ! 俺は真の男女平等主義者だ。例え相手が女だろうが悪女に掛ける情けはねえ!」
めぐみん「悪女って、さすがにそれは言い過ぎじゃないですか?」
カズマ「んなこたーない。こいつは頭の悪い女……略して悪女だ!」
ダクネス「またお前は、そんな屁理屈をこねて……」
アクア「なんか凄い侮辱された!? 謝って! 許さないけど謝って!!」
カズマ「やなこった」
カズマ(うわっ、うぜーなコイツ……泣き出しやがった)
カズマ「……しょうがねえなあ。分かったよアクア、謝らないけど許してくれ」
アクア「そ、そうよ。そうやって素直に謝れば、慈悲深い女神様である私は許してあげるのに」
めぐみん「アクア……騙されてますよ」
ダクネス「しかも、謝っても許さないとか息巻いていたのに、なんて単純な……」
(クエスト自体の危険度は低そうだが、依頼主の身元が不明なのが気になる。まさかアルダープの差し金……ってのは考えすぎか?)
(仮にそうだとしたら、尋問にでも使われたらヤバイ。後ろめたい事など何もないが、バレたら困る事は沢山あるからな)
(もし宝玉が神器なら、正規の所有者以外は使いこなせないから問題ない。だが不特定多数の誰にでも使用可能なアイテムだとしたらどうだ?)
(俺のスパイ疑惑はまだ晴れていないし、ここは慎重に立ち回らないと。後々のリスクを考えたら、キッチリと自分の目で見定める必要があるな……)
アクア「流石に実物を見れば分かるわよ」
カズマ「そっか、なら一安心だ。このクエスト受けよう」
ダクネス「いいのかカズマ?」
カズマ「ああ、熟考した上での決断だ。二言はねーよ」
めぐみん「流石はカズマです。決める時は決める男だと思っていました!」
カズマ「おいおい、そういうセリフはクエスト達成後に取っておけよ。まだクエストを受けるって決めただけだろう?」
めぐみん「それでも、です」
カズマ「なんか含みのある言い方だな?」
カズマ「そんなことねえよ。ただ、全員の安全を考えて(特に自分の)用心深くなってただけだ」
めぐみん「……私達の安全を?」
カズマ「当然だろ? なんか変か?」
めぐみん「そう……ですか」
カズマ「なんだよ、おかしなヤツだなあ」
めぐみん(カズマ……普段は憎まれ口を叩いても、仲間を大切に思ってくれてるんですね)
カズマ「どうした、めぐみん?」
めぐみん「いえ、あの……」
カズマ「?」
ダクネス「あー、ごほん、ごほん!」
アクア「なーに見つめ合っちゃってるのかしらこの二人は? はい、離れて離れて!」
カズマ「おわ!? 何だよお前ら? おかしな邪推すんじゃねえ!」
めぐみん「そそそうですよ! 私とカズマは別にその、そ、そういった感情はごにょごにょ……」
カズマ「お、おうダストか、久しぶり」
ダスト「もしかして、カズマ達もこのクエストを受けたのか? やめとけやめとけ」
カズマ「いや、今回はちょっと引けない理由があってな……って、お前たちもクエストを受けたのか?」
ダスト「おう、でも俺等は残念ながら失敗だ……いや、俺たちだけじゃねえ。他にも何組かのパーティーが挑戦したが、未だに達成した奴はいねえよ」
カズマ「そ、そんなに危険なクエストなのか?」
ダスト「ああ、思い出すだけでも恐ろしい……最悪パーティー崩壊の危機も有り得る。悪い事は言わねえ、今回は諦めな」
カズマ「ダ、ダスト……」
ダスト「じゃあな。一応、忠告はしておいたぜ」
アクア「……」 ← カズマに対する不信の眼差し
めぐみん「……」 ← ジト目
ダクネス「……」 ← 以下略
カズマ「なあみんな、やっぱり今回のクエストはなかったという事にしないか?」
ダクネス「駄目に決まってるだろう。二言はないんじゃなかったのか?」
カズマ「で、でもダストが危険だって言ってたよ?」
アクア「うっわー、なんて見事なヘタレっぷり。カズマさんてば、ちょーかっこ悪いんですけど!?」
めぐみん(こっ、こんな男にちょっとでもときめいてしまった自分が恥ずかしい!)
ダクネス「往生際が悪いぞカズマ! さあ、すぐに準備して出発だ」
カズマ「いやー! 誰か助けて―!!」
カズマ「ふう、大分奥まで来たな」
ダクネス「まだ昼前だというのに良いペースだ」
アクア「今日はまだ一度もモンスターと遭遇してないもんね」
カズマ「この森のモンスターは基本的に群れて行動するから、戦闘を回避するには却って好都合だな」
ダクネス「霧の中での単独行動は危険だと、奴等も本能で分かっているんだろう」
カズマ「俺等はそれを逆手に取って、固まって動いてるモンスターを敵感知スキルで察知して迂回するだけでいい」
「霧で視界が悪いのは向こうも一緒だし、潜伏スキルを使うまでもない」
ダクネス「うむ、お陰で随分と順調に進んでいる。カズマの功績だな」
カズマ「もっと褒めていいぞ」
ダクネス「いや、お前はすぐ調子に乗って大ポカをやらかすからな。このぐらいに留めておこう」
カズマ「へいへい」
カズマ「えーと、朝から歩いてるし、森の中央付近じゃないかな」
めぐみん「ねえ、カズマカズマ」
カズマ「どうしためぐみん?」
めぐみん「そろそろ爆裂魔法が撃ちたいのですが」
カズマ「ちょ!? お前、ここになにしにきたか分かってんのか!?」
「なあに、私の爆裂魔法でこの周辺一帯を更地にしてやりますから、見晴らしが良くなった所でアイテム探しと洒落込みましょう!」
カズマ「やめんかこの爆裂娘。目当てのお宝ごと一緒に吹き飛んだらどうすんだ!」
「それに今回は退治や討伐クエストじゃないんだから、無理に戦う必要はないんだぞ」
めぐみん「でも、もう少しでスキルポイントが貯まって、新しいスキルを習得出来るんです」
カズマ「おお、それじゃあ燃費のいい攻撃魔法を覚えてくれる気になったのか?」
めぐみん「は? 何を言っているんですかカズマ? 爆裂魔法の威力向上にスキルを全振りするに決まってるじゃないですか」
「これによって破壊力と効果範囲は現在の三割増し……正に一撃必殺です!」
めぐみん「そんな事はありません。我が爆裂魔法(改)は、真の強敵と相見えた時、必ずや仲間を守る力となってくれるでしょう」
カズマ「いや、強い相手とは戦わないのが、ウチの基本方針だから」
めぐみん「リスクがあるからこその必殺技……カズマも男の子ですから、このロマンを理解してくれると思っていたのですが」
カズマ「そりゃあ十分わかるけど、ロマンじゃご飯は食えないんだよ」
めぐみん「ふぅ……現実主義者と言えば聞こえは良いが、つまらない人間ですね」
ダクネス「小物だな」
アクア「狡っからい」
「……いいかめぐみん。お前は俺達の切り札、謂わばリーサルウェポンだ。ジョーカーは最後に切るものだと相場が決まっている」
「だから今は魔力を高めて温存しておけ。来るべき最終局面へ向けてな」
めぐみん「リーサルウェポン……意味は分からないけど良い響きです。気に入りました!」
「では早速、そのリーサルウェポンをブチかましていいですか?」
カズマ「お前……俺の話聞いてた?」
めぐみん「ええ、もちろんです! カズマは私と爆裂魔法に、強い信頼を寄せてくれているんですよね?」
「幸い俺の敵感知スキルでエネミーの接近は分かるし、直接戦闘は避けてお宝だけをかっさらうべきだ」
「地の利を活かして上手く立ち回れば、戦わずしてクエストの達成も夢じゃない。やだ、俺ちょっとカッコイイ!」
めぐみん「ですが、姑息なカズマには性に合った作戦でしょうが、私にはストレスが溜まります」
カズマ「ほオ……言ってくれるじゃねえか、俺のストレス発生源が」
めぐみん「そちらこそ」
めぐみん「望む所です」
カズマ「後で泣きついても許さねえから覚悟しとけよ」
めぐみん「ふん、こっちのセリフです。カズマこそ謝るなら今の内ですよ」
カズマ「……上等だよ、行くぞッ!」
めぐみん「なんの! 受けなさいカズマ!」
ダクネス「おい、よさないか二人とも! ……こんな所でにらめっこをするんじゃない!」
ダクネス「めぐみんよ、年頃の少女が人前で変顔など晒すものではない。可愛い顔が崩れてしまうぞ、まったく」
「カズマもあまり、めぐみんに変な遊びを教えるな」
カズマ「失敬な、俺の故郷に伝わる由緒正しい勝負方法だぞ」
ダクネス「勝負ならば、ジャンケンやコイントスでもよかろう」
カズマ「運の絡む勝負だと、俺が圧倒的に有利すぎてな。そうだ、ダクネスもやるか?」
「だが、カズマが乱暴に虐めてくれるなら、喜んで辱めを受けよう!」
カズマ「うわー変態だ。へんたいさんがいる」
ダクネス「さあカズマ、遠慮せずやってくれ!」
カズマ「嫌です」
ダクネス「くっ、この容赦のなさ……流石カズマだ」
カズマ「おまっ、そればっかだな。食う寝る遊ぶしか頭にねえのか!?」
アクア「元プロニートのカズマにだけは言われたくないんですけど」
カズマ「もうニートちゃうわい! 今はちゃんと職に就いて働いてますう!」
アクア「なによ、小金が入ると引き篭もって、自堕落な生活を送ってるくせに!」
カズマ「それこそお前に言われたくないわい! この飲んだくれのアル厨女神が!」
アクア「ひっどーい! 私はアル厨なんかじゃありません! ちょっとお酒が大好きなだけよ!!」
カズマ「俺だって今は歴とした冒険者だ! 元プロニートという不名誉な呼び方は止めろ!!」
めぐみん「そうですね。幸いこの辺りは開けて広場の様になってますし、ここなら危険も少ないでしょう」
カズマ「しゃあねえなあ……それじゃあ飯にするか」
アクア「やったあ! ごはん、ごっはん!」
カズマ「子供かよ!?」
アクア「フン、フフフー♪」
カズマ「鼻歌まで歌い始めやがった……完全に大きな子供だ」
めぐみん「そうですよ、微笑ましいじゃないですか」
カズマ(うーん、言われてみればそうかも。あいつの能天気さに誤魔化されてるけど、この異世界生活は過酷だ)
(実際何度か死んだし、アクアが居なけりゃとっくに人生終了してたよな……たまには感謝してやってもいいか)
???《うふふっ、一つだけこっそりと作ってきた激辛サンドイッチ、上手いことカズマに食べさせなくっちゃ!》
カズマ(……前言撤回。こいつに捧げる感謝の気持ちなど無い)
アクア「え!? な、何で? どうしてバレちゃったの!?」
カズマ「どあほう! 考えてる事が口からだだ漏れなんだよ!!」
アクア「うそ! だってずっと鼻歌を歌ってたのに、そんなの無理だってば!」
カズマ(んん? 言われてみればそうだな?)
アクア「やだやだ! 本当はそんなの作ってきてない!!」
???《食いしん坊のカズマが手を出しやすい様に、特別に具をタップリと挟んだのを作って仕込んでおいたの☆(ゝω・)v♪》
カズマ「お前はどこまでも失礼な奴だな。俺は男なんだからお前達より食べる量が多いのは当然だろうが」
アクア「違うの違うの! 確かにそんなこと思ってたかもしれないけど、口には出してないんだから!!」
カズマ「何を訳のわからない事口走ってんだお前は!?」
カズマ(……思考を読まれる? おい、それってまさか!?)
カズマ「ああ、どうやらお目当ての宝が近くにあるようだな。気をつけろみんな!」
ダクネス「分かった! カズマ、周囲に敵の気配は?」
カズマ「いや、全く感じない!」
カズマ(どういうことだ? てっきり宝を守るボスモンスターが襲ってくると思ってたのに)
アクア「へ? おかしな事って?」
カズマ「お前が心を読まれた時の事だよ!」
アクア「えーと、私は隠し事がばれたらいけないと思って」
カズマ「それに反応したのか? ……お前、まだ何か隠してる事があるんじゃないだろうな?」
アクア「なななないってばホントに!」
???《実は私……後ろめたくてみんなに黙ってた事があるの》
カズマ「ほらみろやっぱりか! 吐け、今度は何をやらかした!?」
アクア「やだやだ! そんなの言えないってば!!」
???《このまえ夜中にどうしても我慢出来なくって、こっそりカズマの部屋に忍び込んで、ベッドで寝てるカズマに内緒でイケナイ事しちゃったの》
カズマ「……はい?」
ダクネス「かッ、カズマもカズマだ! お前はドスケベのくせに一線を超える度胸はない安全なヘタレ紳士だと思っていたのに! この無節操な恥知らず!!」
カズマ「へッ、ヘタレ紳士とはなんだ! 失礼にも程があるぞ!!」
めぐみん「ちょっと誘惑されたぐらいで簡単に堕ちるなんて……くッ、そうと知ってれば私だって……」
カズマ「おおおお、おちょちょけめぐみん! お前は何を口走ってるか分かってんのか!?」
カズマ(どういうことだ? 俺は全く身に覚えがないが……ひょっとして本当に寝ている間にアクアにされてしまったのか?)
(それならちょっとぐらい感触とか覚えててもよさそうなのに、なんて勿体無い……じゃなくて落ち着け俺!!)
(身に覚えがない事で責め立てられる様な理不尽が許されていい筈がない! 断固として無罪を主張せねば!!)
ダクネス「いッ、痛いのか!? ……ゴクリ。そうだぞカズマ、容疑者としての説明責任を果たせ! 決して興味本位で聞いている訳ではないからな!」
カズマ「おっ、落ち着けお前ら冤罪だ! 俺はなにもヤってねえ!!」
ダクネス「ならばお前は穢れを知らぬ純潔な体であると、エリス様に誓えるか?」
カズマ「あッ、当たり前だろ、このサトウカズマ、心は醜く汚れていても体だけは清流の如く綺麗だとも! ……ってかアクア! お前は一体ナニしやがった?」
???《カズマが大事に隠してたお酒を全部飲んじゃったの》
カズマ「…………なんだよー、紛らわしい言い方しやがって。良かった、やっぱり俺は無実だ……ってお前今なんつった?」
???《カズマのお酒を飲んじゃった☆(ゝω・)v♪》
カズマ「てっめえ何してくれてんだ! あれはクエストが成功した時に、皆で祝杯を挙げる為に買っておいた大事な酒なのに!!」
アクア「違うの聞いて! ちゃんと後で買い直して戻しておくつもりだったの! ホントだってば!!」
カズマ(なるほど、アクアが珍しくクエストに乗り気だった理由はこれか。こいつは飲み屋のツケが相当溜まってるハズだし、手持ちの金が尽きたんだろう)
ダクネス「……えーと」
カズマ「おい、お前達……俺に対して何か掛けるべき言葉があるんじゃないか?」
めぐみん「わ、私はもちろんカズマの事を信じてましたよ。ええ」
ダクネス「その通りだぞカズマ! 我々は鉄よりも硬い絆で結ばれた仲間ではないか!!」
カズマ「……ケッ、何が絆だ、耳が腐るぞ。完全にクロだと決めつけて非難してたくせによ」
「敵はどうやら隠し事……暴かれたら困る秘密を探っているみたいですから、何か対策を考えないと!」
カズマ(心を読む敵……えーと、漫画やアニメだとこんな時どうやって対処してたっけ?)
カズマ「そうだみんな! 無心になるんだ!!」
ダクネス「無心に?」
カズマ「何も考えなければ、心を読まれる事もないはずだ!」
めぐみん「分かりましたカズマ!」
ダクネス「よし、そういうことなら!」
???《無心になれ》
???《無心になれ》
カズマ「って、コントやってんじゃねえんだぞ!」
アクア「だって、何も考えないなんて無理よ!」
カズマ「お前は普段は何も考えてないくせに、何でこんな時だけ都合の良い事言ってやがる!」
ダクネス「しかしカズマ! 考えないように意識すればする程、余計に意識が集中してしまう!!」
めぐみん「考えない事を考えてしまいます!」
めぐみん「このお固い口調は……ダクネスでしょうか?」
アクア「ダクネスの恥ずかしい秘密ってどんなの? ちょー聞きたいんですけど?」
カズマ「下衆いなあ野次馬根性丸出しで……いや、俺も興味あるけどさ」
???《私は神に仕えるクルセイダーでありながら、力及ばず敵に敗れて陵辱される妄想をして、興奮する愚かな性癖があるのだ》
《エリス様……どうか罪深き我が身を許したまえ》
アクア「……」
めぐみん「……」
ダクネス「どっ、どうしたお前達!? こんなクルセイダーには幻滅しただろう? だからそんな呆れた顔ではなく、もっと蔑んだ目で見てくれ!」
カズマ「いや、今更そんな事言われても、とっくの昔に知ってるし……」
めぐみん「隠してるつもりだったんですか」
アクア「えー期待してたのにつまんなーい」
ダクネス「こ、こちらこそ、もっと冷淡な侮蔑の視線を期待していたのに肩透かしではないか!」
カズマ「分かった分かった。また今度な」
???《ふう……なんとか真の秘密は守れたな》
カズマ「ん? 真の秘密?」
アクア「どういうことなの?」
めぐみん「ダクネス?」
ダクネス「なななななな何でもない、何でもないぞ! 気にしないでくれ!!」
《自分には似合わないし誰にも見せるつもりはないが、信頼出来る口の堅い仕立て屋を探して、いつかはそれで着飾ってみたいのだ……》
カズマ「……」
アクア「……」
めぐみん「……」
ダクネス「みみみみんなッ! どどどうかこの事は内密にしてくれ!!」
カズマ「ああ、安心しろダクネス。俺はとっても口が軽い。明日には街中に噂が広まってる事を保障するぜ!」
ダクネス「全く安心出来ない!!」
アクア「そうよ! 楽しい事はみんなで分かち合うべきだわ!」
カズマ「うわ、最低だなお前」
めぐみん「この男はどの口でそんな戯事をほざきやがりますか」
ダクネス「お願いだからやめてくれカズマ! こんな恥ずかしい噂を吹聴されたら、明日から街を歩けなくなってしまう!!」
カズマ「うーむ、特殊性癖を饒舌に語るのは良くて、少女趣味を知られるのは死ぬ程恥ずかしいのか……おもしれーなコイツ」
めぐみん「カズマ、そんな事を言って笑ってると、自分の恥ずかしい秘密をバラされた時に後悔しますよ」
カズマ「はッ、今更お前らに知られて恥じるような秘密などない!」
アクア「またまたー、カズマさんてば強がっちゃって」
カズマ「つつつ強がってなんかねーし?」
ダクネス「凄い汗だぞ、大丈夫かカズマ?」
めぐみん「……怪しいですね」
ダクネス「急用? こんな時にか?」
めぐみん「一体どんな用事なのですか?」
カズマ「えーと……魔王を倒しに行くとか?」
ダクネス「それは最終目的であって、今やるべきことではなかろう」
アクア「ねえコイツなんか隠してるわよ。みんなでとっ捕まえて吐かせましょう! 普段好き勝手やってるカズマをとっちめる良いチャンスだわ」
カズマ「お前が言うな! お前が!! ……頼む、みんな俺を信じてくれ! 俺達は固い絆で結ばれた仲間じゃなかったのか!?」
めぐみん「その絆を否定したのはカズマ自身じゃないですか」
ダクネス「悪く思うなカズマ。私の秘密を知られた以上、口封じをさせてもらう……なあに、殺しはせん。お前の恥ずかしい秘密を握って、逆らえない様に脅すだけだ!」
カズマ「お前それ完全に悪役のセリフだろお!!」
ダクネス「観念しろカズマ! めぐみん、抑え付けるのを手伝ってくれ!!」
めぐみん「は、はい。カズマ、覚悟してください!」
カズマ「やッ、やめろおーッッ!!」
???《俺……みんなに謝らなくちゃいけない事があるんだ》
アクア「ほら、やっぱりなんか隠してたわ!」
???《以前、どうしても我慢できなくなって、めぐみんとダクネスをオカズにオナ○ーした事があるんだ……ごめんな》
アクア「……」
めぐみん「……」
ダクネス「……」
(若気の至りとはいえ、俺はとり返しのつかない事をしてしまった……)
(だってしょうがないじゃないか! エ口コンテンツ溢れる日本と違って、エ口本すら存在しない異世界生活では色々なモノが溜まるんだよ!!)
(そんな苛酷な状況で美少女達【※外見のみ】に囲まれてたら、変な気分にならない為の定期メンテナンスは必要不可欠!)
(おまけに此奴等は俺をヘタレ紳士認定して無防備に接してきやがって……そんな生殺し状態の俺を誰が責めれるだろうか?)
カズマ「あんだよアクア? ……笑いたければ笑えよ」
アクア「私の名前が入ってないのはどういうこと?」
カズマ「……はあ?」
アクア「それって女としての魅力が二人に劣るって事? ちょー納得いかないんですけど!? 納得いかないんですけど?」
カズマ「お前、せっかく二人が気を使ってくれてるのに、ちょっとは空気読めよ!」
アクア「カズマこそ、めぐみんとダクネスをよく見なさいよ! この二人のだらしなく緩み切ったニヤけ顔を!」
「この人たち自分がオカズにされた事に満更でもないっていうか、むしろ選ばれし者の優越感に浸ってるんだから!」
Kazuma「What are you talking about?(訳:お前は何を言っているんだ?)」
ダクネス「金の長髪に豊満な体型で、更には年上のお姉さんという、カズマの理想に最も近い容姿なのは私だしな!」
カズマ「あ、ホントだ。この人たち、スッゲー得意げな顔してらっしゃる」
めぐみん「ムッ……ダクネス、流石にそれは自意識過剰ですよ」
ダクネス「そういうめぐみんこそ、スキンシップが過剰すぎるぞ。そんな露出の高い格好でカズマにベタベタくっ付いて、童貞のカズマには刺激が強過ぎる!」
めぐみん「爆裂魔法使用後の私を背負うのはカズマの役目です。パーティー加入時にちゃんと契約事項として決定されているんですから、文句を言われる筋合いはありません!」
カズマ「いや、初耳だぞそれ」
めぐみん「それに軽装なのはアークウィザードの宿命ですし、ダクネスこそ下着姿も同然の格好で屋敷をうろついたりして、童貞のカズマには目の毒です!」
「萌えですか? 気になる人の前ではいつもと違う自分を演出する、普段の重装甲とのギャップ萌えを狙っているのですか!?」
カズマ(こっ、これは一見するとハーレムラノベの主人公みたいな状況だが、全く嬉しくないどころか完全に針の筵だ。胃がキリキリ痛んで穴が開きそう)
(しかもオカズにした事を取り沙汰されて、白熱した議論を交わされるとは、なんという生き地獄……おうち、お家に帰りたい)
めぐみん「望む所です!」
カズマ「ほッ、本気かお前ら!?」
めぐみん「か、勘違いしないで下さい! これはどちらがカズマに好かれているとかではなく、あくまで女性としての魅力の優劣の問題ですから!!」
ダクネス「そうだぞカズマよ! これは女としての矜恃の問題だ!!」
めぐみん「さあカズマ、私とダクネス……」
ダクネス「どちらがより魅力的な女性なのだ?」
カズマ(サトウカズマ絶体絶命のピンチ! ……そうだ、こんな時こそ使うべき決めゼリフがあった!!)
めぐみん「ほう……この状況で、堂々とそんな事をぬかしやがりますか」
ダクネス「聞こえなかったなら、もう一度聞こえる様に言い直してやろう。めぐみんと私、どちらが女性として、より魅力的かと聞いたのだ!」
めぐみん「ほう……この期に及んでまだそんな事をぬかしやがりますか」
ダクネス「聞こえなかったなら、何度でも聞こえる様に言い直してやろう。めぐみんと私、どちらが女性として、より魅力的かと聞いたのだ!!」
(どうしてこうなった? せめてもう少し早くサキュバスのお店の存在を知っていれば、こんな事態にはならなかったのに!)
(……ってヤバイ! こいつ等には絶対に知られてはいけない秘密があったじゃねえか!! どッ、どうにかして話を逸らさないと!!!)
めぐみん「ふう……これでは埒があきませんね。ここはそのものズバリ、使用回数で決めるとしましょう」
ダクネス「ああ、いいだろう。優柔不断なカズマの言葉より、余程明確な判断基準だ」
めぐみん「さあカズマ! 私とダクネス、どちらを何回使用したのか、はっきりと答えて下さい!!」
カズマ「何だその拷問は!? 言えるかそんなの!! ……もうやめてくれ……人の傷口に塩を塗り込むのがそんなに楽しいか?」
めぐみん「あ……すみません、カズマの気持ちも考えずに無神経でした」
ダクネス「許せカズマ、少々やり過ぎた」
アクア「えーと、ゴメンねカズマ」
カズマ(よし、なんとか誤魔化すのに成功したな。更にダメ押しで注意を他に向けなくては!)
アクア「へ?」
ダクネス「いきなりどうしたのだカズマ?」
カズマ「仲間とは苦楽を共にするのもの。だが約一名、苦しみを共有してない不届き者が居ないか……なあ、めぐみん?」
めぐみん「一体何を言い出すんですか!?」
カズマ「至極当然の要求だろう。苦しむ仲間を尻目に、一人だけ守秘を貫き安寧を甘受して許される道理が無い!」
アクア「うわあ、またカズマが無茶苦茶なこと言い始めたわ」
ダクネス「おいカズマ、流石にそれは詭弁ではないか」
カズマ「うるっせえ!! 嫌がる俺を無理矢理抑え付けて、悔恨たる過誤を白日の下に晒した人でなし共が知ったふうな口を利くなあッ!!!!」
めぐみん「わわわ私は人に知られて困る様な隠し事などありませんよ!」
カズマ「めちゃくちゃ動揺してんじゃねーか」
《あの時の思い出は、私にとって一生忘れられない大切な宝物です》
アクア「なあに、この少女チックなポエムは? 全身が痒くなるんですけど?」
ダクネス「これはめぐみんか?」
カズマ「めぐみん……俺の事そんな風に思ってたのか?」
めぐみん「みみみんな騙されないで下さい! これは私の思考を拡大解釈した印象操作です!!」
「こんな恥ずかしい事は、ちょっぴりしか思ってないんですから!!」
カズマ(ちょっぴりは思ってるのか)
カズマ「お前……俺の事そんな風に思ってたの? ……いや、知ってたけど」
めぐみん「ち、違います、これは我々の仲違いを狙った敵の策略です。惑わされてはいけませんカズマ!」
???《……でも》
カズマ「んん?」
めぐみん「ッうッッわーッ! わーッッ!! わーーッッッ!!!」
カズマ「うおッ!? うるせー!!」
めぐみん「おのれ卑怯な、姿を隠して小細工を弄するとは……潔く出て来なさい! さもなくば、我が爆裂魔法でこの森諸共焼き払ってくれる!」
カズマ「おッ、落ち着けめぐみん! 一発しかない切り札を気軽にポンポン使うなって、何回言わせれば分かるんだお前はッ!!」
めぐみん「わひゃっあ!? かかかかカズマ!! どこ触ってんですか!?」
カズマ「わ、わざとじゃねーよ! 不可抗力だ」モミモミ
???《めぐみん……ぺったんこだと思ってたけど、実際に触ると意外なボリュームがあってやわらかい。嗚呼、可愛い女の子のお○ぱいを揉んでるだけでお金をくれる仕事があれば、俺だって一生懸命働くのになぁ》モミモミ
めぐみん「%#”*+#?!|¥-&<+$ーー!!?」プチンッ
カズマ「ぷちん?」
めぐみん「ふ、ふふふ……いいでしょう。そこまで黄泉路を急ぎたいなら、お望み通り我が爆裂魔法にて引導を渡してやります!」
カズマ「めッ、めぐみんがキレたぞ! 二人とも急いで取り押さえろ!! 撤退ー! 戦略的撤退だーッ!!」
カズマ(なっ、なんて恐ろしい攻撃だ。近づく相手に対して、無差別に秘密を暴露するとは……ダストの言ってた、パーティー崩壊の危機というのも頷ける)
(大方あいつの場合は仲間に内緒で拵えた店のツケやら、パーティーの活動費をこっそりとちょろまかした事なんかをバラされたんだろう)
(ふっ、まるでその時の光景が目に浮かぶかのようだ……)
カズマ「このまま諦めて帰るっていうのは……」
ダクネス「却下だ」
カズマ「ですよねー」
めぐみん「ここまでの屈辱を受けた以上、我が爆裂魔法にて雪辱を果たす以外の選択肢はありません!」
(もしこのまま無策で突撃して、サキュバスの店がこいつらにバレたら……そして俺が常連だと知られたら……かッ、考えるだけでも恐ろしい!)
(きっと虫ケラを見るような蔑んだ視線に晒され、汚物の如き扱いを受けるに違いない)
(いや、これは俺だけの問題じゃない。もしあの店の存在が露見すれば、他の男性冒険者にとっても死活問題だ)
(この秘密だけは、どんな犠牲を払ってでも守り抜かねばならない! ……となると、残された手段はただ一つ)
ダクネス「本当か、カズマ?」
カズマ「ああ」
めぐみん「流石はカズマです!」
アクア「それで、具体的にはどうするの?」
カズマ「作戦はシンプルだ。まず俺はここに残る」
ダクネス「ふむ」
カズマ「そしてお前達三人はアイテムの奪取に向かってもらう」
アクア「それから?」
カズマ「それだけだ」
めぐみん「……は?」
ダクネス「えーとカズマ、攻略の為に必要な対策を聞かせて欲しいのだが……」
カズマ「そ ん な も の は な い !」
アクア「カズマ……あんたまさか」
カズマ「ああ、非常に心苦しいが、お前達にはクエスト達成の尊い犠牲になってもらう」
めぐみん「こッ、この男、臆面もなく自分一人が助かる選択を提案しましたよ!」
ダクネス「なんという外道!」
アクア「クズマの異名は伊達じゃないわね」
めぐみん「ほう、考えですか」
アクア「正直不安しか感じないんですけど?」
ダクネス「では、その考えとやらを聞かせてもらおうか?」
カズマ「安心してくれ。たとえお前達がどんな薄汚く罵り合って醜い軋轢を生んだとしても、俺は温かく迎え入れる事を誓おうじゃないか」
「さあ、これで後顧の憂いは絶った。後は心置きなく突貫してくれ」
めぐみん「自己保身しか考えてないという最低のオチですけどね」
アクア「くッ、なんて澄み切った爽やかな笑顔! ちょームカつくんですけど!?」
カズマ「まあ待て、お前達の言いたい事は分かる。一人で残る俺の身を案じてくれてるんだろう?」
めぐみん「全く違います」
ダクネス「確かにカズマは自分の身を案じた方がいいな。私達はお前が思っているほど寛容ではないぞ?」 ← 拳をボキボキ鳴らしながら威嚇
アクア「ねえ、コイツこのまま縛って置いてっちゃいましょうよ。……死体はモンスターが綺麗に片付けてくれるだろうし、証拠は残らないわ」
カズマ「アクア、怖過ぎだぞお前」
ダクネス「おいカズマ、本当なのかそれは!?」
カズマ「いやまあ、そんな事もあったかもしれないが昔の話だ」
めぐみん「キールのダンジョンに行ったのは、つい先日じゃないですか」
カズマ「ふゥ、やれやれだゼ。そんな過去の過ちに固執するより、大切なのは未来だろう? もっと建設的な話し合いをしようじゃないか」
ダクネス「ほう、ではその建設的な話し合いとやらに戻るとするか。お前は本当に、この先に進む意思がないのだな?」
カズマ「ああ。俺はお前達ならばどんな苦難の道であっても乗り越えてくれると、固く信じている」
「信じる……美しい言葉だな」
めぐみん「どうやら無理やり美談風にまとめて逃げ切るつもりみたいですよ」
アクア「ねえ、お願いだから殴らせて! この恥知らずの横っ面に一発キツイのお見舞いしないと気が済まないわ!!」
めぐみん「アクア、気持ちは分かるけど落ち着いて下さい。手を出したらそれこそ思う壺です」
「どうせカズマの事ですから”殴られた傷が痛むからこの先へは進めない~”とかぬかすに決まってるんですから」
カズマ(ちっ、コイツも鋭くなってきやがったな。完全に俺の思考パターンをトレースしてやがる)
カズマ「え!? いいのか?」
ダクネス「カズマも年頃の男の子だ、女性に対して隠しておきたい秘密の一つや二つあるだろう」
「我々とて、胸に秘めた思いまで土足で踏み躙る様な真似はしたくない」
カズマ「ダクネス……分かってくれるのか?」
ダクネス「勿論だ。しかしクエスト攻略に参加しないというのであれば、成功報酬は我等で三等分させてもらうが異論はないな?」
「働かざる者食うべからず……冒険者ならば当然の心得だろう?」
カズマ「お、おう、そうだな」
アクア「ねえねえ私、報酬が入ったら高いお酒飲みたい!」
ダクネス「これだけの高額クエストだ、そのぐらいの贅沢は許されるだろう」
めぐみん「私はお肉をお腹いっぱい食べたいです!」
ダクネス「ああ、めぐみんは育ち盛りだから、しっかりと食べるがいい」
カズマ「えーと……ぼくは?」
ダクネス「まあ、カズマは一人寂しく水でも飲んでいてくれ」
めぐみん「いいですね。カズマの好意で取り分に約80万エリスの上乗せですし、たまにみんなでお出かけしましょうか」
アクア「アクセルに戻ったら、私達がダクネスに可愛い服を見立ててあげるわね!」
ダクネス「しかしアクア、私にはどうせ似合わないし、それに何より恥ずかしい」
めぐみん「大丈夫ですよ、誰もダクネスの趣味を笑ったりしませんから」
ダクネス「めぐみん……」
めぐみん「いえ、お構いなく」
カズマ「フッ……見くびらないでくれたまえ。仲間が危険な目に遭うかもしれないのに黙って見過ごす事など、僕には到底耐えられない!」
ダクネス「随分とあっさり乗って来たな」
アクア「なんか不気味よ……コイツなんか企んでるんじゃないの?」
めぐみん「いえ、報酬云々より、何だかんだ言っても一人だけ仲間外れになるのが嫌なんでしょう」
「は~い、じゃあカズマきゅーん。お姉ちゃん達がいっしょでちゅから、さみしくないですよ~」
カズマ「フッ……君達、やめたまえ。そこまで辛辣に罵倒されたら、流石の僕でも傷付くじゃあないか」
ダクネス「分かったからそのムカつく顔と口調をやめろ。それでどうするカズマ。何か策はあるのか?」
カズマ「それは今から考える……こっからはおふざけはナシだ」
カズマ「さて、まずは現状のおさらいだ。俺達はターゲットの存在を確認するも、敵の抵抗に合って一時撤退」
「幸いにも物理攻撃や魔法攻撃はなかったが、強力な精神攻撃により全員がダメージを受けた……ここまではいいな?」
ダクネス「うむ、続けてくれ」
カズマ「じゃあ次……アイテムを奪取してクエストを達成するには、敵の精神攻撃を無力化する必要があるワケだが、何かいい対策はあるか?」
めぐみん「ちょっと待って下さい。私達は敵の姿を確認していませんし、他の攻撃手段も警戒すべきではないですか?」
カズマ「ああ、その点については問題ない。恐らく敵は他に攻撃手段を持たない筈だ」
ダクネス「しかしカズマよ、敵に戦闘能力が無いと断定するのは早計ではないか?」
カズマ「根拠はある。俺の敵感知スキルには反応が無かったからな。安全もしくは戦闘力を持たないと推測できる」
「そもそも邪魔者を追っ払いたいなら手っ取り早く武力排除に出る筈だし、こんな回りくどい手を使うって事は他にやりようがない証拠だろう」
カズマ「だからその短絡思考をやめろ。ターゲットまで消し飛ぶっての!」
ダクネス「ではアクアのマジックバリアはどうだ? 先程は虚を突かれて浮足立ってしまったが、試してみる価値はあると思う」
カズマ「そうだな、そいつは俺も考えたが失敗した時のリスクでかいし、それにダクネスが簡単に敵の術中に嵌ったのが気に掛かる」
ダクネス「私が?」
カズマ「ダクネスは物理防御力は勿論、魔法への耐性も相当な高レベルだ。なのにあっさりと心を読まれたのが腑に落ちなくてな」
「それにアクアやめぐみんも魔法防御力の高い上位魔法職だし、あれは魔法とは違う攻撃かもしれない」
ダクネス「カズマはこう言っているが、どう思うめぐみん?」
「術に抗えるかは別にして『使われた事』にすら気付かないのはおかしいです」
ダクネス「というと?」
めぐみん「具体的には魔力の乱れです……先程はそれを全く感じなかった。いかに敵の奇襲で戸惑っていたとはいえ、こと魔法に関して私が見誤る事はあり得ません」
ダクネス「そうか、めぐみんがそう言うならば確度は高いな」
めぐみん「そうですね……結局の所、魔道具職人も商売ですから、新たな魔道具を作る時には量産化を視野に入れる筈です」
「こんな能力を持つ魔道具を量産出来るとは思えませんし、可能性は低いんじゃないでしょうか」
ダクネス「確かにその通りだな。もしこんな魔道具が市井に出回ったら、世界中が大混乱に陥るぞ」
カズマ「大昔に今より優れた魔道具を作ったってのか?」
ダクネス「いや、過去には今より高度な文明が発達していたが、魔王軍の侵攻によって多くの文化や技術が失われた。その結果、この世界の文明は退行したのだ」
カズマ「そういや、デストロイヤーみたいなトンデモ兵器なんかも作っちまうぐらいだしな」
めぐみん「真偽は不明ですが紅魔族の祖も、魔法の扱いに特化した新種族を生み出す計画の産物だという言い伝えもあるぐらいです」
カズマ「お前、そんな重い秘密をそんなにあっさりと語るなよ」
めぐみん「そうですか? 昔の話など確かめようもありませんし、もし本当だったとしても逆にカッコイイじゃないですか」
「呪われし宿命をその血に秘めた魔の眷族……燃える設定です!」
(……いや、本当にそうか? 仮にアーティファクトだとしたら、新たな疑問が湧いて来る)
(過去に作られた遺物であるなら、めぐみんやダクネスがその存在を知らなかったのはおかしい。それが稀有な存在なら尚更だ)
アクア「ねえ、カズマ」
めぐみん「しっ、駄目ですよアクア。カズマの邪魔になりますから、静かにしていましょう」
(あり得るか? あらゆる情報が集まるギルドですら把握してない、未知の宝物だなんて……)
(それが前人未到のダンジョン奥深くに隠されていたり、ドラゴンみたいに誰も手出し出来ないぐらい強力なモンスターが護ってるなら話は分かる)
(でも、こんな何もない森の中にあったら、金になりそうな財宝の情報に耳聡い冒険者連中がすぐに嗅ぎつけて噂になってるはずだ)
(そうだよ、こんな始まりの街に近い場所、それこそ日本から来たチート持ちの連中なら一人だって簡単に……あ!)
カズマ「繋がった……確かにそれなら、一応の筋は通る」
ダクネス「おい、カズマ!?」
カズマ「あ、わりい、こっちの話だ。それよりみんな、攻略法を思い付いた!」
ダクネス「本当か!? カズマよ、どんな方法を思い付いたのだ?」
カズマ「聞かれて困る秘密なら、誰にも聞かれない状況……つまり一人で行けばいい。簡単な理屈だろ?」
ダクネス「それはそうだが」
めぐみん「しかし危険ではないですか? 迂闊に一人で向かった矢先に、他のモンスターにでも襲われたら目も当てられませんよ」
カズマ「確かにな。だが、これなら敵の脅威を確実に無効化出来る」
めぐみん「でも!」
ダクネス「待てめぐみん、そう急いで結論を出さずともよかろう。なあカズマ、他に策はないのか?」
カズマ「あるにはあるけど……」
アクア「なによ、歯切れが悪いわね」
カズマ「いや、問題点が多くてな」
めぐみん「聞かせて下さい。全員で検討すれば、改善出来るかもしれませんし」
アクア「条件?」
カズマ「パーティー内に、秘密を聞かれて困る相手が居た場合だ」
「親しき仲にも礼儀あり……互いに命を預ける仲間だからこそ、些細な秘密でさえ致命的な亀裂となり得る。ならば特に親しくない相手と組めばいい」
「赤の他人や顔見知り程度の相手に聞かれて困る秘密なんて、そうそうないだろ?」
ダクネス「カズマよ、しかしそれは!」
カズマ「言いたい事は分かる。現状の面子じゃどう足掻いても無理だからな」
アクア「それじゃあ意味ないじゃない!」
めぐみん「待って下さいアクア、意味ならあります。ねえカズマ、そうでしょう?」
ダクネス「なるほど、良い手に思えるが……どこが問題なのだ?」
カズマ「まずは合同クエストによる報酬金額の分配が減る事。参加人数が増えば、それだけ取り分が少なくなるのは当然だな」
アクア「それは確かに困るわね……ん? って事は、まだ他にもあるの?」
「後日出直しだと、そいつらに先を越される可能性が高い」
ダクネス「そういえば、ダスト達も挑んだ後だったな」
カズマ「それに、ウチはアクセル一のパーティーだ。これは自惚れや思い上がりじゃなく、クエストの攻略実績を客観的に見ても間違いない」
「そんな俺達が失敗すれば、ギルドのネットワークを通じて他の街にもこのクエストの依頼が伝わるだろう。そうなれば本格的にアウトだ」
「他の街から高レベルの冒険者が出張れば、あっさり攻略される可能性が高い。なにせこの森を単独で踏破可能なら、苦も無く攻略出来るだろうからな」
「……だから、俺が一人で行こうと思う」
カズマ「いや、別にやけっぱちになってる訳じゃない。その逆だ」
めぐみん「逆?」
ダクネス「カズマよ、我等が納得出来る様に説明してくれ。そうでなくてはお前一人を危険な目に合わせる訳にはいかん」
カズマ「わかった、じゃあ順を追って説明しよう。めぐみんは継戦能力が皆無なので論外。ダクネスは単独じゃ敵を倒せないし、アクアはこの森の魔獣系モンスターとは相性が悪い」
アクア「そうね、私もアンデッドや悪魔相手なら一人で無双出来るけど、脳筋の体力自慢は苦手だわ」
カズマ「対する俺は直接戦闘こそ苦手だが、偵察を始めとした単独行動は得意分野だし、この中では最も成功の可能性が高いだろう」
めぐみん「カズマ……」
カズマ「心配すんなってめぐみん。俺がそんな殊勝な男だと思うか? ヤバくなったらすぐにトンズラこくさ……だから、そうなる前にカタを付ける!」
カズマ「ああ、約束する。俺だって命は惜しいし、毎回命を張るほど仕事熱心じゃねえよ」
アクア「ねえカズマ、もし死んでも後で蘇生してあげるけど、食べられちゃダメよ! 傷は塞がっても欠損した部位は治せないんだから!」
カズマ「お前、俺がしくじる前提で話を進めるのやめてくれる?」
ダクネス「まあ、そう言うなカズマ。アクアなりにお前を心配しての言葉だ」
めぐみん「そうですね、生きてさえいれば次に繋がります」
アクア「そうよ、私達にはいずれ魔王を倒すっていう大きな目標があるんだから!」
カズマ「あー、ハイハイ。そのうちな」
アクア「本当に頼むわよカズマ。私の為に」
めぐみん「?」
アクア「どういうこと?」
カズマ「あの地形がネックになる。あんな開けた遮蔽物の無い場所でモンスターに周りを囲まれたら確実に詰む」
めぐみん「複数で警戒に当たれば安全な場所でも、単独で退路を絶たれたら危険だという事ですか」
カズマ「理解が早くて助かる。特にこの森のモンスター共は群れて行動する習性があるし、潜伏中は他のアクティブスキルを併用出来ない」
「逃げ回るだけならなんとでもなるが、お宝をゲットするにはもう一工夫必要だな。」
カズマ「ああ、短時間で構わない。邪魔者を完全に取り除き、俺が自由に動ける状況を作ってくれ」
カズマ(俺の予想だと周囲の安全さえ確保出来れば、アレが使えるはずなんだが……)
めぐみん「それならばいい案があります。ダクネスのデコイと私の爆裂魔法のコンボなら、カズマが自由に動ける時間をある程度なら稼げる筈です」
ダクネス「そうだな……この森に棲息しているのは殆どが知能の低い魔獣ばかりだから、魔族や亜人族を相手にするよりは効果も高くなるはずだ」
カズマ「具体的には?」
ダクネス「周囲数キロ……半径にして約1500メートルといった所か」
カズマ「ばッ、馬鹿かお前は!? 一体何考えてスキルを習得してやがる?」
カズマ「何事にも限度があるわい! 精々が交戦距離にいる敵の囮になるだけで十分なのに、視認出来ない様な遠距離にいる敵まで引き寄せてどうするつもりだ!?」
「限りあるスキルポイントを無駄遣いしやがって、このへっぽこクルセイダーが! 言え!! 何の為にそんな無意味なスキルの育成をしやがった!?」
ダクネス「カズマよ、それではまるで私が敵に蹂躙されるのを、心のどこかで待ち望んでいるかのようではないか」
カズマ「ほお、違うってのか?」
ダクネス「いや、違わないが」
カズマ「うわ、開き直ったよコイツ!」
カズマ「……お前は随分と上機嫌だなめぐみん」
めぐみん「そんなことはないですよ? ダクネスの掻き集めたモンスターを一網打尽にすれば気分爽快、レベルアップに新スキル習得と良いとこ尽くめ。最高に美味しい役どころだなんて思ってませんとも!」
カズマ「お前はちったあ奥歯に衣を着せろや」
めぐみん「……ですが許して下さいカズマ。美味しい所をかっさらうのは紅魔族の宿命、この身に流れる紅き魔の血の定めなのです!」
(片や一発しか撃てない大魔法に全振りのアークウイザード。片や攻撃スキルを全く覚えないクルセイダー)
(こいつらが余りにも酷過ぎて、アクアが優秀なんじゃないかと錯覚しそうになるぜ)
(しかし馬鹿も極めると力になる。マイナスにマイナスを掛けたらプラスになったというか、混ぜるな危険というか……)
(この連携は条件次第で有効に扱える場合があるかもしれないから覚えておこう)
(逆を言えばそれ以外の状況では応用の効かない、汎用性に欠けるポンコツともいえるが)
「だから最も確率の高い予想に賭けてみようと思う。根拠が状況証拠と俺の推測ってのは弱い気もするけど」
ダクネス「カズマよ何を言い出すのだ、お前が出した結論に我等が異を挟むと思ったか?」
アクア「そうそう」
カズマ「自分で言い出しといてなんだけどいいのか!? 正直博打だぞ?」
「読みが外れたら今回のクエストは失敗、後日出直そうにも他のパーティーに先を越される可能性が高い……それでも信じて任せてくれるか?」
カズマ「めぐみん、何でそんな風に思うんだ?」
めぐみん「そんなのカズマの顔を見れば一目で分かります。だって、ずっと一緒にやってきた仲間なんですから」
カズマ「……ちっ、しゃあねえなあ。もし失敗しても文句言うなよ」
アクア「は!? 何言ってんの? 失敗したらボロクソ貶すに決まってんじゃん」
カズマ「おまっ!? この場面でそういう事言っちゃう?」
アクア「当然じゃない、私を誰だと思ってるのよ……それが嫌なら、ちゃんと決めてよね!」
カズマ「……ったくしょーがねえなあ。ダクネスの復帰祝いだ、ぱっぱと片付けて酒場で祝杯をあげようぜ!」
ダクネス「頼むぞカズマ」
めぐみん「頼りにしてますよカズマ」
カズマ「ああ、任せとけ!」
アクア「私は?」
カズマ「アクアは俺と来てくれ。そうだな、声の届かない場所……広場の手前で待機してくれ」
「アンデッドはダクネスのデコイで引き付けられないだろうし、念の為だよ。それに、アイテムゲット後にやってもらいたい事もあるしな」
アクア「……ああ、そういう事ね。分かったわ」
カズマ「よし、それじゃあ作戦開始だ!!」
静寂に満ちた空気を突如として振るわせ、狂獣の咆哮が響き渡る。森のしじまを掻き乱し、連鎖的に湧き上がるその雄叫びは、瞬く間に荒々しい大斉唱となって周辺一帯へと轟いた。
声の主である魔獣達は皆一様に苦悶の表情を浮かべ、心の奥底から湧き上がる狩猟と殺戮の衝動――ケモノとしての本能に支配されていた。
やがて一匹が耐えかね駆け出すと、まるで堰を切ったように全ての魔獣が、ある一点を目掛けて我先にと雪崩れ込む。
白目を剥き、巨大な牙の立ち並ぶ顎から泡を吹くその姿は、幻惑に翻弄される憐れな麻薬中毒者を連想させた。
草や花、木々の梢を踏み拉き、行く手を遮る樹木や岩石に体躯を激突させながらも疾走するその様は、明らかに常軌を逸した豹変ぶりだった。
これだけの大規模な騒乱、その元凶は当然ながら自然に発生したものでは有り得ない。だが、この異常事態を引き起こしたのは、僅か一騎の聖騎士がその能力を発動させた結果だった。
クルセイダーのスキル『デコイ』――自らが囮となって敵の注意を引き付け、打たれ弱い後衛職への攻撃を逸らすというクルセイダーの固有スキル。
攻撃特化型のソードマスターと違い、防御にも秀でるのがクルセイダーのクラス特性だが、その本分はあくまでアタッカーである。故にこのスキルは副次的な意味合いが強く、有用性はさほど高くない。
そもそも後衛職は前衛の『壁』に守られる陣形が基本で、元々の被弾率が低い。だが回復の要であるプリーストや、範囲攻撃の要たるウィザードを危険に晒すのを厭んじる慎重派のパーティーが、保険として採る戦術の一端だ。
それ故ダクネスの様に本来の職分を放棄してまで、一見無意味とも思えるスキルの育成をする特異な例は他に類を見ない。
しかし率先して修得すべき攻撃スキルの分までスキルポイントを注ぎ込んだ結果、その効果は本来の用途とは全く懸け離れた異質な能力へと変貌を遂げた。敵の正気と思考を奪い、己の元へと誘導するその能力は、最早広域精神操作のレベルにまで昇華されていた。
スキルの影響下にある魔獣達は、まるで羽虫が誘蛾灯に吸い寄せられるかの如くダクネスの元へと大挙して押し寄せる。
その先に不可避の破滅が待ち受けているとも知らずに――否、もしその危機を認知していたとしても、抗う事など不可能であっただろう。ダクネスの使うデコイは、それ程の強制力を秘めていた。
けたたましい騒音を掻き立てながら、刻々と迫る狂獣の群れ。その凶悪な暴威に蹂躙される様を妄想したダクネスは、頬を紅潮させながら恍惚とした表情を浮かべる――しかし、そんな興奮気味のダクネスに冷水を浴びせるように、めぐみんが鷹揚に告げる。
「ご苦労様でしたダクネス、デコイの効果を解除してください」
「ま、待てめぐみんよ。せめて少しぐらいモンスター達に痛め付けられる迄待ってくれ!」
高揚した面持ちで、抗議する女騎士。だが少女は、そんな懇願を素気無く撥ね付ける。
「駄目です。これ以上敵を引き付けると、ダクネスまで爆裂魔法に巻き込む可能性があります」
「そ、それはそれで魅力的な展開だな。一度めぐみんの爆裂魔法を、この身に受けてみたいと思っていたのだ」
その発言に少々惘れながらも、紅魔の少女は溜息交じりに語った。
「いかにダクネスが堅牢堅固だろうと、もし直撃を受ければ無事には済みません。ダクネスが倒れたら爆裂魔法使用後に動けなくなった私を、誰が運んでくれるんですか? アクアも傍にいない事ですし自重してください」
年下の少女に諫められて流石に面目を失ったのか、女騎士は不満気に答える。
「分かった、今回は諦めるとしよう。だがめぐみんよ、いつかまた機会があれば是非頼みたい」
「はいはい。そんな退っ引きならない事態があるとは思えませんが、その折には。約束しますよ」
その前に立ち塞がるかのように、一人の少女が躍り出る。黒い外套を颯爽と翻し、愛用の魔杖を振り翳すその姿は、恐怖や緊張などの感情とは全くの無縁であった。
これほどの大群を前に単身その矮躯を晒す少女は、その荒事向きではない可憐な外見とは裏腹に昂然たる風格に満ちていた。
例え歴戦の冒険者であろうと、思わずその表情を固く曇らせ躊躇するであろう絶望的な状況。だが、そんな死地にあってなお、少女はその口元に不敵な笑みを浮かべる余裕さえあった。
「此処より先は現世と幽世の境界にて、黄泉へと続く冥府の門。我は死と破壊を司りし者……汝等を煉獄へと誘う、紅き魔の眷族なり」
手にした魔杖を上段で軽く回転させ、おもむろに正眼へと突き付ける。そして一拍の間を置いて、幼き死神は哀れな獲物達へと向けて死の宣告をする。
「さあ、森の静謐を掻き乱す異形の怪物共よ、我が必滅の一撃にて常世の闇へと帰るがいい!」
己の口上を述べ終えた少女が、満面の笑みで振り返る。
「どうですかダクネス、決まってましたか!?」
「ノリノリだな、めぐみんよ」
半ば呆れ顔で、気のない返事をするダクネス。しかし、そんな仲間の態度もどこ吹く風か、嬉しさを堪え切れない調子で少女は声を弾ませる。
「当然です! こんな絶好の好機、興奮せずにはいられません!!」
欣喜してそう語る様は、普段の大人びた言動と相反して、彼女に年相応の愛嬌を感じさせた。
瞑目しながら将来の展望を朗々と語る少女は、陶酔しきった表情を浮かべて微かにその身を震わせた。そして一頻りの妄想を終え、手にした得物を構え直すと、弛緩した空気が一瞬にして張り詰める。
――めぐみんの目が大きく見開かれ、その紅い瞳が一際妖しい輝きを増す。鮮血よりも艶やかに、黄昏よりも濃密に。仄かに煌く虹彩は、深みと彩りを兼ね備えた美しい緋色をしていた。
紅魔族――その名の元にもなった、特徴的な真紅の瞳。それは極度の興奮状態において、淡き光を放つという不可思議な特性を備えていた。
それによって肉体のリミッターが解除されたり、封印されし第二人格が顕現する、などといった効果は一切なく、ただ単純に目が光るだけである。
しかし極度の興奮状態とは、言い換えれば気力が最高潮に充実した状態であり、普段以上の実力を発揮する事が往々にしてある。
その為、紅魔の里に住まう者の多くは、それが真の力に覚醒した際に起きる現象だと頑なに信じて疑わない――何故なら、その方がカッコいいからである!
流麗な詠唱が紡がれると周囲に藍白い光が立ち籠め、少女の足元に円形の魔法陣が描き出されていく。大地に刻まれし真円から沸き立つ風が螺旋となりて、ローブやマントの裾を緩やかにはためかせる。
やがて吹き荒ぶ膨大な魔力は世界を黒く暗転させ、虚空に巨大な魔法陣を幾重にも張り巡らせた。
限界まで充填された魔力が逃げ場を求めて猛り狂い、数多の紫電を走らせる。その濁流の如き凄まじい力の奔流を、少女は平然とした面持ちで事も無げに御してみせる。
――魔術を生業とする者であれば、その卓越した技量に感嘆の念を抱かずにはいられなかったであろう。
迸る雷光を伴って、秘中の奧技たる大魔法が炸裂する。耳を劈く轟音と共に特大の火柱が吹き上がり、凶禍の具現たる獰猛な魔獣達をいとも容易く散華させてゆく。
荒れ狂う爆発のエネルギーはそれのみに留まらず、天を引き裂き大地を穿ち、崩壊という名の禍々しくも美麗な大輪の花を開かせた。
幼少の砌より紅魔族でも随一の天才と称された神童が、その半生を費やした研鑽の果てに会得し練り上げた魔術の集大成。全魔力を収束させて放つという特質の為、一日に一回という制限はあるものの、その圧倒的な破壊力は他の追随を許さない。
これこそが『爆裂魔法』――世界にも数名しか使い手の居ない、アークウィザード最強の――否、全クラスでも最強を誇る究極の攻撃魔法である。
その馴染みある肌を焼く熱気と、体の芯まで響く低音を身に受けた彼は、潜伏スキルを解除させ待機していた木上の枝から飛び降り駆け出した。
「今日は96点ってトコか。えらく気合い入ってんな」
めぐみんの爆裂道の良き理解者でもあるカズマは、本日の一品をこう評価した。
少女の日課である『一日一爆裂』――彼女が仲間に加わって以来、雨の日も、風の日も、雪の日も――その、ほぼ毎日を付き添い、身近で見届けて来たのは他ならぬ彼である。
今やカズマは、爆裂魔法評論家(意味不明)と評しても差し支えない程、爆裂魔法に対する知見を得てその造詣を深めていた。
その彼を以てして満点に近いと言わしめる魔術の冴えは、少女の心情を慮れば当然の結果であった。
今回の作戦、その鍵を握るのは、かくも迅速な行動である。己が身の安全を図るだけならば、それなりの時間的余裕はある。
だが、彼の考える攻略の手法には、自らの周囲に誰も存在しない状況が必要不可欠――只一人、宝玉の守り手を除いては。そして事を成した後に、ささやかながらもやっておきたい事があった。
――不意に鬱蒼とした森が途切れ、視界が開けてくる。苦々しい敗走の記憶も新しい、先程の広場にカズマは再び舞い戻る。
「念の為に聞いておくけど、隠れてるんなら出てこいよ。こっちは一人だ。さっきと同じ轍は踏まないぜ!」
彼は遠くにまで届く様、大声を張り上げて警告を発する。だが、その問い掛けは虚しく、森の静寂に黙殺された。
ここまでは予想通り。カズマ達一行のクエスト達成を阻む謎の『敵』――彼はその正体について、既にとある目星を付けていた。
何処からともなく、抑揚のない虚ろな声が響き渡る。先刻の忌まわしき凶事の再現。だが今度は、その禁秘を剔抉されようとも狼狽える事は無い。
あえて隠しておきたい秘密を強く心に念じる事で、相手の出方を窺う腹積もりだ。それは先程の邂逅における、彼なりの状況分析であった。
そっと瞼を閉じて、聴力を研ぎ澄ませる。どの道この深い霧の中では目を凝らした所で高が知れている。ならばいっそ五感の中で最も多くの情報量を占める視覚を自ら封ずる事によって、他の感覚を鋭敏にする算段である。
彼の切り札は、対象から遠ざかるほど成功率が落ちる。その為、より正確を期するならば、少しでも間合いを詰める必要があった。
耳を凝らして、慎重に声の出所を探り歩を進めるカズマ。やがて極度の精神集中により高められた直感が、指先に確かな手応えを予覚させる。
「悪いがそこまでだ。あの店はアクセルに住まう全ての漢達にとって、掛け替えの無い希望の光。その秘密を暴かれる訳にはいかない! ……スティールッ!!」
カズマのスティールが発動する。一見何もない空間に向けて無造作に放たれたかに見えたソレは、だが確かに捉えるべき獲物へと喰らい付き、彼の右手にその証である輝ける宝玉を顕現させた。
手にした戦利品を繁々と凝視するカズマ。とは言え、この宝玉を鑑定するのは彼ではない。予め、その役割に相応しい要員を帯同させている。
「おーいアクア、もういいぞー」
離れた場所で待機していたアクアの元へ戻り、呼び掛けるカズマ。その声を聞き付けた彼女は、小走りで彼の元へと駆け寄った。
「終わったの?」
「ああ、コイツが真実の宝玉さ。それで、これはやっぱり神器なのか?」
アクアへ腕輪を渡してから、そう尋ねるカズマ。その問い掛けに、暫しの間を置いてから彼女は答えた。
「うん、間違いないわ。正規の所有者以外には、リミッターを解除出来ない仕様になってる」
「何だよそのリミッターって?」
聞き慣れない単語が飛び出した事に少々面食らって、即座に疑問を投げ掛ける。
「何でまたそんな事を?」
「神器はね、その名の通り『神の力』その一部を宿したアイテムなの。その強大な力故に、使用には大きな制限がかかる。
例えばレベル1の村人でさえドラゴンを倒せる聖剣……それが誰にでも使用可能だったらどうなると思う? もし悪人や魔王軍の手に渡ったとしたら?
そういった神器の悪用を防ぐ為に、本人以外は使いこなせないシステムになってるのよ」
そう粛々と語る彼女の横顔は、普段の放漫さを感じさせぬ、女神としての威厳に満ちていた。
この宝玉も他の人が使っても真の力を発揮する事は出来ないわ。本来なら深層心理や記憶すら探れる力を秘めてるみたいだけど、精々表層的な思考を読むのが関の山でしょうね」
「そっか、なら大丈夫そうだな」
カズマがこのクエストを引き受ける切っ掛けとなった懸念事項――自身に火の粉が降りかかる可能性。
最初はアルダープの関与を疑っていた彼だが、奴はああ見えて狡猾な男である。それならば配下を使って秘密裏に行い、カズマの所属する冒険者ギルドに依頼するなどという愚は犯さないであろう。
結局、クエストの依頼主が何者なのかを確かめる術はないが、万が一カズマを陥れる意図があったとしても、種が割れていれば対処のしようもある。
アクアの語る通り表層の意識しか読めぬのならば、虚言を弄するのを得意とする彼には脅威と成り得ない。
後ろ暗い事など何もないが、ウィズの正体や屋敷を入手した経緯などは人様に聞かれて問題の無い話でもないのだ。
だが、その僅かばかりのリスクの為に、目前に控えた一千万という報酬を棒に振る選択肢を彼は持ち合わせていなかった。
「いや、こっちの話。それよりアクア、ちょっと探してもらいたいモノがあるんだ。多分お前ならすぐに見つけられると思う」
「探してもらいたいモノ?」
やがて程なくして、探し物は見つかった。それは原型を留めぬほどに朽ち果てた、痛ましくも憐れな骸だった。
カズマは手頃な木の枝を削って即席の墓標を作ると、大きな樹木の近くに埋葬用の穴を掘り始める。彼の傍でその光景を見守っていたアクアは、やや不思議そうな面持ちで尋ねた。
「ねえカズマ、どうしてこの人にお墓を作ってあげようと思ったの?」
そのアクアの問い掛けに、彼は憂いを帯びた表情で答えた。
彼の脳裏に浮かぶのは、生前日本でプレイした数多のゲームと、天界でアクアに謁見した時の事だった。
初めて異世界に降り立った日の事を思い出す。あの時の昂揚感と、その後の失望感。思い描いていた華々しい活躍とは無縁の苦しい日々。それどころか冒険者ギルドの登録にすら右往左往し大変な苦労を強いられた。
もしそんな右も左も分からぬ状態で、うっかりこの森に迷い込んでしまったとしたら?
無論、神器の強大な力を以てすれば、こんな辺境で苦戦する事など万に一つも有り得ない。だが、何事にも例外が存在する。
そう、神器の選択ミス。
魔剣グラムは素手にて岩をも砕き、鉄をも拉ぐ膂力を与えてくれる。
聖鎧アイギスは刃を弾いて魔法を阻み、ドラゴンのブレスですら防ぐ無敵の守りを与えてくれる。
冒険開始直後にして、歴戦の勇士をも凌駕する驚異的な戦闘力を齎してくれるのだ。
そういった『分かり易い』効力の神器であれば、順風満帆に冒険を進められたであろう。
かつてカズマも同様の痛恨のミスを犯した忌まわしき記憶が蘇り、傍らの女神を眺めながら苦笑する。
あの時、一時の激情に駆られず無難に聖剣でも選んでおけば、今頃は勇者として可愛い女の子にちやほやと持て囃され、どこぞの国のお姫様と恋仲にでもなっていたのかもしれない。
非ざるべき未来の夢想に、そっと涙するカズマ。
そんな彼に、少々怪訝な表情でアクアが言った。
「へ!?」
彼女の意外な発言に、彼は目を丸くさせる。
「お宝を盗んだはいいけど、この森に迷い込んで命を落としたそうよ。それで死後も盗んだ宝を取られたくなくて、近付く冒険者に嫌がらせしてたみたいなの」
「……それじゃあ俺は、この盗人野郎のせいで一生ものの生き恥をかかされたってのか?」
肩を震わせ、全身に怒りを漲らせるカズマ。
「ちくしょう、この野郎ブッ殺す!!」
「もう死んでるってば」
彼の名前は七篠権兵衛。日本からの転生者だ。
真実の宝玉を手にアクセルに降り立った彼は、各地のカジノで荒稼ぎし一財産を築き上げた。一生遊んで暮らせるだけの蓄えを手にした後は各地を豪遊し、正に理想の異世界生活を過ごしていた。
だが、たまたま立ち寄ったアクセルの街で盗難にあい、自身は戦闘力が皆無の為、ギルドに宝玉の奪還を依頼したという訳だ。
勇者候補としての天命から背いて、金儲けに奔走した小心者――それがギルドに身元の秘匿を頼んだ理由である。
是非とも感想お願いします
特に分かり辛かった所なんかを指摘してくれると嬉しいです
アクア「カズマのスティールって、女の子のぱんつを剥ぎ取るだけかと思ってたけど、ちゃんと役に立つのね。見直しちゃった」
カズマ「そんな訳あるか! ミツルギにも華麗に決めてただろうが!」
ダクネス「まあまあ、落ち着けカズマ。今回の立役者はお前だ……誇ってもいいぞ」
めぐみん「そうですね。カズマの活躍無しにクエスト達成は難しかったでしょうし、異論なしです」
カズマ「おっ、おう」
カズマ(素直に褒められると、なんだか照れるな)
カズマ「えーと、簡単に説明するとだな」
アクア「ふむふむ」
カズマ「対象のアイテムをランダムに盗む。運が高いほど成功率が上がり、盗めるアイテムのランクもアップする……ってとこか」
ダクネス「なるほど……幸運値が異常に高いカズマには、うってつけのスキルだな」
めぐみん「そういえば魔剣グラムも、あっさり一回でスティールしましたしね」
「普段はこんな使い方はしないが、今回はそれを逆手に取った」
「周囲に邪魔者が居なければ、最もランクの高いトロフィーに反応するだろうと思ってな。一発でビンゴだぜ」
めぐみん「流石ですカズマ!」
ダクネス「うむ、素晴らしい頭脳プレイ。冴えているなカズマ」
カズマ「おいおい、やめろよお前ら。今日はどうしたんだ?」
カズマ「ああ、それは簡単な理屈さ」
アクア「どういう事?」
カズマ「俺にとっては女の子のぱんつが最上位のレアアイテムだっていう認識だからだよ」
「フッ……自慢じゃないがスティール一発でぱんつをゲット出来るのは、世界広しといえども俺ぐらいだろうな」
めぐみん「この男……本当に自慢にならない特技を、さも自慢気に語ってますよ」
「もしかして『おぱんつゲットだぜ!』が、これからカズマの決めゼリフになるのかしら?」
ダクネス「なんだその伝説のポケモ○トレーナーみたいな決めゼリフは」
めぐみん「ポケ○ンと言うよりパチモンですけどね。伝説の変態サトウカズマ……なんて最悪の響きでしょう」
ダクネス「もし我々が魔王討伐に成功した暁には『伝説の変態とその仲間達』と後世に語り継がれるわけか」
「くっ、なんというご褒美! ……ではなく屈辱だ!」
アクア「いやー! そんなの嫌ー!」
カズマ「ふっ、お前らそんなに褒めるなよ……照れるぜ」
アクア「侮蔑の言葉すら称賛に受け取るなんて、どんだけ幸せな頭してんのかしらコイツ」
めぐみん「アクアがそれを言うのもどうかと思いますが……」
ダクネス「うむ、確かに」
アクア「あっ! 来た来た! 早く乾杯しましょ!」
めぐみん「はい、どうぞダクネス」
ダクネス「ありがとうめぐみん」
カズマ「よーし、全員に行き渡ったかー?」
めぐみん「おっけーです、カズマ」
カズマ「それじゃあクエスト達成と、ついでにダクネスの帰還を祝してかんぱーい!」
全員「かんぱ~い!」
カズマ「……なんちゅうおっさん臭さだ」
めぐみん「アクア、せっかくの美人が台無しですよ」
アクア「もう! いいのよ楽しければ何だって!」
ダクネス「はいはい。せめて口の周りに付いた泡ぐらいは拭こうな」フキフキ
アクア「あ、ありがとダクネス……にしても、ちょっとカズマ酷くない?」
カズマ「へ? 何がだよ?」
カズマ「いーじゃねーか別に。お祝いをしないって訳じゃねーんだから」
ダクネス「アクア、私は気にしていないぞ。こうして皆に祝ってもらえるだけでも十分に幸せだ」
めぐみん「ダクネス……」
カズマ「ほらみろ。本人だってこう言ってる事だし、細かい事気にすんなよ」
ダクネス「ほ、本当かカズマ?」
カズマ「べべべ別に心配なんかしてねーし!」
めぐみん「ねえカズマ、こんな時ぐらいは素直になっていいんですよ?」
カズマ「俺はいつだって自分の心と欲望には正直だよ!」
《素直にお祝いするのが照れくさいから、クエストの成功祝いにかこつけて、みんなで喜びを分かち合おうと思ってさ》
カズマ「んなっ!?」
アクア「ほーらみなさい! 口では強がってても心は偽れないんだから!」
めぐみん「アクアが腕に付けているのは……」
ダクネス「真実の宝玉、か?」
アクア「依頼人に引き渡すのは明日だっていうから、受付で借りて来たの」
カズマ「外せ! 今すぐその邪悪な魔神器を外せ!」
アクア「なによー、ひねくれ者のカズマが正直になれる手助けをしてあげたんじゃない」
カズマ「うるさい黙れ!」
かずま「ええと、あー、うー」
めぐみん「ほら、カズマ。本当はあなたが優しい人だって、みんな分かっていますよ? だからつまらない意地を張らないで下さい」
カズマ「めぐみん……」
アクア「そうそう。それなのに無理して悪ぶって強がっちゃって、カズマさんてば可愛いんだから」
カズマ「お前は褒めたいのか煽りたいのかどっちなんだよ!」
カズマ「そ、そうか……あー、その、なんだ。無事に帰ってきてくれて良かった……おかえりダクネス」
めぐみん「おかえりなさい」
アクア「おっかえりー!」
ダクネス「……ああ、ただいまみんな!」
アクア「おええぇ……飲み過ぎた。 ぎ ぼ ぢ わ る い 」
カズマ「頼むから、最後ぐらいは綺麗に終わってくれ……」
― お わ り ―
でも真実の宝玉の所有者であった冒険者がなぜカズマの後輩だと断定されたのかがわからん
断定というか、アクアが知らないから
カズマが後輩じゃないかと勝手に推測しただけです
一応、『多分』という言い方にしたのは、ミツルギの前例があったからです
だとしたら「多分後輩」より「同輩のよしみ」って単語で片づけた方が良かったかもね
アクアの鳥頭だと自分で生成したチートアイテムなのか覚えていない先輩になるし
後発の引継ぎ女神組でも納得がいく
ありがとうございます
そういう指摘が欲しかったんです
一人で書いてると、第三者的な視点が全く無いものですから
矛盾点があっても自分じゃ気付けない
他にもおかしなトコとか挙げてもらえると嬉しいです
貴重なお時間ありがとうございました
褒めて下さった方
ありがとうございます
一人でも面白いと言ってくれたなら 書いた甲斐があります
元スレ
カズマ「どうしたダクネス、もう限界か? ワレメが濡れてヒクついてきたぞ」 ダクネス「ああ……見ないでくれカズマ」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1493509565/
カズマ「どうしたダクネス、もう限界か? ワレメが濡れてヒクついてきたぞ」 ダクネス「ああ……見ないでくれカズマ」
http://viper.2ch.sc/test/read.cgi/news4vip/1493509565/
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コメント一覧 (16)
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- 2017年04月30日 16:25
- 神器クエストをネタにするなら仮面盗賊団ベースにしたほうがよかったんじゃ?
まあそれだと3期以降の話になるから、アニメだけの人にそっぽ向かれるだろうけど
-
- 2017年04月30日 16:40
- 冒頭しか読んでないけど
いかにもアニメしか知らないって感じでよかったです!
-
- 2017年04月30日 16:55
- ダクネスはカズマを更正させようなんて思わない
-
- 2017年04月30日 21:00
- つまんね
-
- 2017年04月30日 22:59
- 面白かったよ
-
- 2017年05月01日 01:06
- なんというかまじめに書いてるのは伝わった
もっと描写増やして投稿サイトの方がいいかもね
-
- 2017年05月01日 21:29
- うむ、普通に面白かったけど・・・、スレタイ詐欺にあった気分。
-
- 2017年05月02日 01:05
- タイトル詐欺
-
- 2017年05月02日 06:33
- 七篠か、いい名字だ
ん?ななしの?ななしの…
名無しの~!?
-
- 2017年05月02日 10:15
- キャラが壊れすぎ
↑や
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- 2017年05月02日 20:46
- 文体やキャラの性格が違うのは二次創作だからと割り切って許容出来るなら内容自体は面白い
そういうのを気にしない人にはおすすめ出来る
-
- 2017年05月02日 23:03
- 面白かったけど途中の説明文はすっ飛ばしたわ
-
- 2017年05月03日 20:49
- 二次創作だけど
元のキャラとか原作と違っても全く気にならないしどうでもいいという人にはオススメ
-
- 2017年05月22日 21:14
- ちょむすけは毛玉でないでしょ。
-
- 2017年12月08日 08:21
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