男「君の恥ずかしい写真をバラ撒いてやる」女「やめろォ!」
女「あ? なんだてめえ?」
男「だが、そんな君も俺には従わざるを得ない」
女「どういう意味だ?」
男「俺は君の恥ずかしい写真を持ってるからね」
女「写真? そんなんでアタシを脅せると思ってんのか?」
男「例えばこれ、老人ホームで優しくおばあちゃんの相手をしてる君が写ってる」
女「!?」
男「これはある被災地で君がボランティアをしてる写真だ」
女「てめえ、盗撮しやがったのか!?」
男「そんなことするかい。ちゃんと君にも許可をもらって撮影したよ。この通りカメラ目線だし」
女「あ……思い出した! お前はカメラマンの……!」
男「君の恥ずかしい写真をバラ撒いてやる」
女「やめろォ! 頼むから……やめてくれ!」
男「じゃあ俺のいうことを聞いてくれるな?」
女「……聞く。何でもするから……やめてくれ……」
男「いや、俺はそういうのは求めてない」
女「え、じゃあ……」
男「俺はカメラマンだからな。当然いい写真を撮るのが仕事であり使命だ」
男「君にはその手伝いをしてもらいたい」
女「アタシ……カメラや写真なんか分からねえぞ」
男「分からなくていいんだ。だが、君とならきっといい写真が撮れると思っている」
女「変な奴……」
女「ここは?」
男「小学校だ」
女「小学校!? まさかアタシに小学校からやり直せってか!?」
男「そうじゃない。卒業アルバムってあるだろ?」
女「ああ」
男「あれで一人一人笑顔の写真を撮りたいんだが……どうしても一人だけ撮れずにいる児童がいるんだ」
女「ふうん……?」
男「彼だ」
女「すげームスッとしてんな」
男「せっかくのアルバムだし、どうしても笑顔で撮りたいんだが……」
女「なるほど、アタシに笑わせろってか」
男「そういうこと。お願いできるかい?」
女「よっしゃ、やってみるか!」
少年「……」
女「別にムスッとしててもいいけどよ。やっぱり人間、笑った方が楽しいぞ?」
少年「……」
男(あれぐらいの説得なら俺も試みた。しかし、本当に笑わないんだこの子は……)
少年「……?」
女「ギャハハハハハッ!」
少年「……」
女「アッハッハッハッハ!」
少年「……」
女「ヒ~ッヒッヒ、アッハッハッハッハ! ワッハッハッハッハッハ!」
少年「……」
少年「……ぷっ」
女「お? 笑ったな?」
少年「アハハハ! そりゃ笑うよ……一人でずっと笑ってんだもん。バカみたい」
女「おう、アタシはバカよ。成績も悪かったからなぁ……」
少年「へぇ~」
女「お前は成績いいのかよ?」
少年「まあね。これでもいつも100点だし」
女「100点! やるじゃん!」
少年「えへへ、まあね。いくつも塾通ってるし……」
女「アタシが子供の時は塾どころかジムに……」
少年「うん」
男「はいチーズ!」
少年「……」ニコッ
パシャッ
男「うん、いいのが撮れた! 君のおかげだ!」
女「こんなんでいいのか? アタシ、笑ってただけだけど」
男「ああ、君だからこそあの気難しい少年を笑わせられたんだ」
女「次の写真は?」
男「あるアイドルのグラビア写真を撮りたいんだけど……」
女「いわゆるお色気写真か」
男「ポーズを取るのが恥ずかしいといって、なかなかはかどらないんだ」
女「そいつにポーズを取らせればいいわけだな?」
男「ああ……君の力を見込んでお願いする」
男「まず、セクシーなポーズで一枚撮ろうか」
アイドル「は、はい……」モジモジ
男「……」
アイドル「す、すみま……」
男「いや、気にしないで」
男(やれやれ、今日も手こずりそうだ……)
アイドル「え?」
女「ふんっ!」ビシッ
女「ほっ!」ビシシッ
女「はっ!」ガバッ
男「……!」
男(この子、頼んでもないのになんてきわどいポーズを……!)
女「ん?」
アイドル「私もポージングしたくなってきました!」
アイドル「えいっ」ビシッ
男「おっ!?」
アイドル「ほらっ」グイッ
男「いいよいいよー! すっごくいい!」パシャッパシャッ
女「おいおい、そっちばかりじゃなくアタシも撮れよ! 贔屓はよくねえぞ!」
男「う、うん」パシャッパシャッ
男(この子、元々恥ずかしい写真のせいで俺に従ってるはずじゃ……まあいいか)
アイドル「ありがとうございました、お姉様!」
女「お、お姉様!?」
アイドル「これからは私、恥ずかしがらずいっぱい悩殺ポーズ決めてみせます!」
女「……頑張れよ、妹!」
男(人気アイドルを妹分にしてしまったか……)
女「今度はどこ行くんだ?」
男「心霊スポットに向かう」
女「心霊? まさか……心霊写真か?」
男「ご名答。今までになかった心霊写真ってやつを撮ってみたい」
女「おもしれえ、やってやる!」
男「ここでは簡単に心霊写真を撮れる」パシャッ
男「ほら撮れた」
女「わーっ! アタシじゃない女がぼんやり写ってる!」
男「やたら出たがりな幽霊なんだ」
女「ようするに、とびきり怖い心霊写真を撮りたいってことか?」
男「いや、逆だ。怖い心霊写真なんてありきたりだからね」
男「俺は“怖くない写真”を撮りたいんだ」
女「また妙なことを考えやがったなぁ……」
女「おーい、出てこい! オバケ女!」
幽霊女「うらめしやー……」ボワァァァ…
女「いきなりお出でなすったか」
幽霊女「なにあなた? 私を撮るならともかく、私に話しかけてくる人なんて初めて……」
女「おう! 腹ァ割って話し合おう!」
幽霊女「信じてた彼氏に裏切られて……」
女「分かるッ! 分かるぞォ~ッ!」
幽霊女「分かってくれるの?」
女「アタシだってこれでも恋の一つや二つや三つ……」
男(女子同士盛り上がってる……生死を越えた女子会ッ!)
女「そっかぁ? アタシでよければいつでも相手になるぞ」
女「スマホあるか?」
幽霊女「うん、死んだ時持ち物も幽霊になったから……」
女「じゃあ、連絡先交換しよう。いいよなぁ、幽霊は料金請求されなくて」
男(すっかり打ち解けたみたいだ……)
女「おう!」
幽霊女「はい!」
男「はい、チーズ!」
パシャッ
男「見てくれ、この心霊写真。実にフレンドリーだ」
女「心霊写真ならぬ“親友写真”だな!」
女「お次は山か……ここは?」
男「知る人ぞ知る名山でね、頂上からの眺めはそれはそれは絶景らしいんだが……」
男「マイナーな山だからほとんど撮影されたことはないんだよ」
男「だから君に登山を手伝ってもらおうと思ってね」
女「ったく、山登りするはめになるとは思わなかった」
男「装備は整えたし……さあはりきって行こう!」
女「だらしねえな。しっかりしろよ」
男「こんなにキツイ山だとは思わなかった……」
女「キツイから有名にならずマイナーなのか、マイナーだから整備されてなくてキツイのか、どっちだろうな」
男「もう歩けない……。俺のことは置いて下山してくれ……」
女「ハァ?」
男「俺には無理だ……。自分の体力を過信してたよ……」
女「ふざけんなァ!!!」
男「!」ビクッ
女「こんなとこ置き去りにしたら遭難しちまうだろうが!」
女「遭難したら、救助隊の人にどんだけ迷惑かかるか分かってんのか! 金だってかかる!」
女「おぶってやる! 絶対頂上まで連れていく! んで絶対下山してやる!」
男「……!」
男「いや……なんとか自力で頑張るよ」
女「ほら、アタシお手製の栄養ドリンク!」サッ
男「ファイト一発!」
男「着いた!」
女「すげーいい景色だ!」
男「ああ、苦労して登ったかいがあったよ。まさに知る人ぞ知る絶景だよ」
女「さ、写真を撮りまくれ!」
男「もちろん!」
パシャッ パシャッ パシャシャッ
男「いよいよ……次が最後の仕事だ」
女「ラストは……どんな写真だ?」
男「ずばり、スクープ写真だ」
女「スクープ……」
男「俺がマークしてる大臣はある大企業の社長と癒着していてね」
男「大臣は社長から多額の金銭をもらう代わり、事業を優先的に回したり、あるいは不祥事をもみ消したりと蜜月の関係だ」
男「二人が密会してる現場を何とか写真に収めたい」
女「面白そう! ワクワクしてきたぞ!」
女「料亭で密会って……ちょっとベタすぎねえか? 悪代官と越後屋じゃん」
男「悪党ほどベタなことが好きなものさ」
男「ここで待っていればきっと……」
女「とりあえず、お菓子食うか? 山吹色じゃないけど」サクサク
男「ありがとう」サクサク
社長「大臣、今日も食事を楽しみましょう」
大臣「そうですな。本題はその後ゆっくりと……」
男「やはり来た……情報通りだ!」
女「あとは賄賂を受け渡しする決定的瞬間をモノにするだけか」
大臣「これはこれは、いつもどうも」
男(トランクに札束! シャッターチャンス!)パシャッ
女「やったな!」
男「ああ、とっとと退散――」サッ
ドンッ!
男「いてっ!」
ボディガード「……」
男「え」
大臣「やはりか」ニヤッ
男「……!?」
大臣「私の周囲をこそこそ探るカメラマンがいるのは前々から分かっていたよ」
大臣「まんまと罠にかかってくれてありがとう」
大臣「ちなみにそのボディガードは、ただのボディガードじゃない」
大臣「君みたいな連中を“消す”のが得意なんだ」
ボディガード「そういうことだ」パキポキ…
男「消す……!?」
女「へっ、こんな時のためにアタシがいるんだろうが!」
女「これでも地元じゃ“喧嘩無敗”で通ってんだ! ――でやっ!」
バキィッ!
ボディガード「ぐっ……!」ヨロッ
女(こいつ、アタシの蹴りで倒れねえ!?)
ボディガード「なかなかの蹴りだ……むんっ!」
ドズゥッ!
女「ぐはっ……!」ガクッ
男「女さん!」
社長「お願いしますぅ!」
ボディガード「はい」ニヤッ
女「く、くそっ……!」
ボディガード「ぬおりゃっ!」
ドガァッ!
女「がはっ!」ドサッ…
ボディガード「そんなことをしていいのかな?」ガシッ
女「うぐ……」
ボディガード「逃げれば、この女の命は確実はないぞ」
男「くっ……!」
女「アタシなら……大丈夫だ。早く……!」
ボディガード「黙れ」ギュウッ
女「あがっ!」メキメキ…
男「や、やめろ!」
ボディガード「なかなかイキのいい小娘だ!」ドズッ
女「げぼっ!」
男(彼女のあの目……まだ闘志は衰えていない!)
男(“一瞬のスキ”さえ作ればきっと逆襲してくれるはず!)
男(だったら……この“切り札”を使う!)
ボディガード「なんだ、命乞いか?」
男「今からとっておきの写真を見せてやる」
ボディガード「写真……?」
男「見ろ……“俺の恥ずかしい写真”だァ!」サッ
ボディガード「!?」
ボディガード(え、なにこれ……。自撮りでこんなアホな写真を……!?)
女(力が緩んだ……!)
女「でやぁっ!」
ガゴォッ!
ボディガード「ぐはっ……!」
女「今のは効いたろ! 拳がモロ顔面に入ったからな!」
ボディガード「ぐっ……この……!」ヨロヨロ
女「うおりゃあああああっ!!!」
ガゴォッ!
ボディガード「が、は……ッ!」
ドザッ…
男(よろめいたところに強烈なヒザ蹴り……! 決まった……!)
大臣「バ、バカな……!」
社長「ひいいいっ!」
男「ああ、ジャンジャン撮ってやる! フラッシュの光にご注意ください!」
パシャッ パシャシャッ パシャッ
大臣「や、やめろおおおおお……!」
社長「撮らないでくれええっ……!」
…………
……
……
TV『続いてのニュースです。大臣の大スキャンダルが発覚しました』
TV『大臣と社長が長らく癒着していたことが明らかになり……』
女「やったな!」
男「うん……これで撮りたかった写真は全て撮れた」
男「これは君の“恥ずかしい写真”と、少しだがお礼だ。本当にありがとう」サッ
男「それじゃ……楽しかったよ」
女「……」
男「ん?」
女「アタシも今まで散々スリルを味わってきたけど、こんなスリリングな数日間は初めてだった」
女「もし足手まといじゃなかったなら、もっと仕事を手伝わせてくれねえか?」
男「願ってもない話だが、君にはだいぶ迷惑をかけてしまった。これ以上は……」
女「手伝わせてくれねえと、こいつをバラ撒く」サッ
男「そ、それは!? ボディガードに見せた……いつの間に!?」
女「アタシ、結構手癖が悪いんだよ」ニヤッ
男「ぐぬぬ……」
男「君となら、きっと世界中に注目されるような素晴らしい写真を撮れそうな気がする!」
女「そうこなくっちゃな!」
…………
……
女「さて、今日はどんな写真を撮りたいんだ?」
男「UFOを狙う!」
女「こないだは二人で航空写真撮ったけど、ついに宇宙と来たか」
男「宇宙人との友好写真を撮りたくてね。交渉は君に任せる」
女「おう、任せとけ! 宇宙人と“はいチーズ”してやる!」
―おわり―
コメント一覧 (4)
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- 2021年03月02日 02:05
- 嫌いじゃないwww
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- 2021年03月02日 03:23
- もっと読みたい打ち切り漫画のような感じ
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- 2021年03月02日 03:35
- こういうの少なくなって寂しいなぁ
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- 2021年03月06日 06:44
- なろうより遥かにいい