1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/08(火) 21:15:03.20 ID:gO755lbx0

――3日後

母「お父さん遅いわね」

娘「どちらさまでしょうか」

母「道に迷ってるのかしら」

娘「はい、確かに、ええ」

母「困ったわ、お父さんが居ないとテレビが直せないもの」

娘「あ、わかりました。はい、お待ちしてます」

母「あなた、さっきからなにやってるの」

娘「警察の人と電話」

引用元: 父「ちょっと海の様子見てくる」 




3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/08(火) 21:17:25.62 ID:gO755lbx0

母「まあ、警察がウチになんの用かしら」

娘「詳しいことは直接来て話すそうです」

母「まあ、大変。お茶菓子が何も無いわ」

娘「買いに行こうにも外は大荒れですよ」

母「あら、そうね。そういえばラジオで外に出ないでくださいって言ってたわね」

母「でも困ったわ、お客様だなんて」

娘「とりあえずお茶でも用意すればよいのでは」

母「そうね、おもてなしは誠意が大事だものね」

娘「……缶詰とお米しかありませんでした」

母「警察の方にはお冷で我慢してもらいましょう」

7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/08(火) 21:21:23.32 ID:gO755lbx0

――3時間後

 ピンポーン

娘「いらしたようです、ドアを開けてきます」

 ガチャッ

 ガッガッ

 ゴー ドガッ

 ガコンッ

刑事「あっ」

刑事「……いえ、どうも。私、先ほどお電話させていただきました、刑事です」

娘「このお天気の中大変だったでしょう、どうぞお入りください」

母「あら、刑事さんお一人でいらしたんですの?」

刑事「……何故、そのような事を?」

母「いえ、ドラマなんかですとこういった場合、複数で行動するのが基本のようでしたから」

娘「母はこう見えてテレビしか娯楽の無い可哀想な女性なのです」

母「あらやだこの子ったら」

9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/08(火) 21:23:32.16 ID:gO755lbx0

娘「でも、確かにおかしいですね。何か理由があるのですか」

刑事「……」

母「あら、ダメよ。刑事さんを困らせちゃ」

娘「どうなんですか、刑事さん。そういえばまだ手帳も見ていませんが」

母「あら、それはダメねぇ。刑事さん、手帳は最初に見せないと」

刑事「……申し訳ありません。実はわけあって携帯していないのです」

娘「そのわけは説明してもらえるのでしょうね」

刑事「……」

母「あら、ダメよ。だんまりはズルいわ」

娘「刑事を装った強盗か何かかもしれません、嵐の海へ放り出しましょう」

刑事「……僕にとっては、それもいいのかもしれませんねえ」

11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/08(火) 21:25:48.78 ID:gO755lbx0

娘「意味深な台詞でごまかそうとしてもダメですよ」

母「ドラマの匂いだわ」

刑事「わかりました。一人でお尋ねした件も、手帳を携帯してない件も説明しましょう」

娘「最初から素直にそうすれば良いのです」

母「ドキドキね」

刑事「……面白い話では、ありませんよ」

母「少しくらいなら話を盛ってもかまいませんことよ」

娘「盛りすぎはやめてくださいね」

刑事「盛りません」

12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/08(火) 21:28:33.17 ID:gO755lbx0

――2時間前

相棒「刑事さん!この嵐の中を徒歩で行くなんて無茶ですよ!」

刑事「ですが車が通れるような状況ではありません」

相棒「電話が通じたんならそのまま事情を説明すればよかったじゃないですか!」

刑事「いいえ、聴取する際には直接顔を合わせるのが必須ですからねえ」

相棒「別に、何か話を聞かなきゃいけないってわけじゃないんですよ!」

刑事「ええ。……ですが、彼女達に話を聞いてもらわねばなりません」

13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/08(火) 21:30:56.05 ID:gO755lbx0

母「あらやだ少しいい話じゃない」

娘「お母さん、ちょっと出てこないでください」

母「あらごめんなさい、でもジーンと来たから」

娘「ツボがよくわかりません」

刑事「……お話を続けても、よろしいでしょうか」

娘「はい、続け――」

母「ええ、是非お聞きしたいわ」

娘「……」

14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/08(火) 21:32:46.04 ID:gO755lbx0

――30分前

相棒「やっぱり無茶だったんじゃないですか!見てくださいよこの海!」

刑事「大時化、というよりはこの世の終わりといった光景ですねえ」

相棒「それになんですか、あの家!なんでよりにもよってあんなところに!」

刑事「たいそう海が好きな旦那さんだと伺っています。だからなのでしょうね」

相棒「だからって、何もサスペンスで使えそうな断崖絶壁に家を建てなくてもいいじゃないですか!」

刑事「個人の趣向ですからねえ、私にもよく理解できませんが」

相棒「刑事さんが理解できない趣向があるなんて……」

刑事「さあ、無駄話はこれくらいにして急ぎましょ――」

 ドノバァン

相棒「刑事さんが流されたーッ!!」

16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/08(火) 21:34:51.95 ID:gO755lbx0

相棒「大丈夫ですか刑事さん!」

刑事「……なんとか体のほうは。ですが、どうやら手帳と財布が流されてしまったようです」

相棒「俺でも吹き飛びそうな暴風なのに、そんなヒラヒラしたコート着るからですよ!」

刑事「申し訳ありません。が、コレだけは譲れません」

相棒「ったくー、刑事さんはコレだから。まあいいです、チャイム押しますよ!」

刑事「はい、お願いします。手を離した際に吹き飛ばされないよう気をつけてください」

相棒「刑事さんと違ってしっかり鍛えてますからね、そう簡単には死にませんよ!」

 ピンポーン


 ガチャッ

 ガッガッ

 ゴー


 ゴツッ

相棒「あっ」

17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/08(火) 21:36:23.88 ID:gO755lbx0

刑事「奇想天外な扉の動きを全く予測することができず、彼は嵐の海へと消えました」

娘「申し訳ありません、あの扉を作ったのは父です」

母「主人は工作が得意なの」

娘「ポセイドン式3段横はね電動スパルタン開閉ドアという名称らしいです」

刑事「ご立派なご主人ですね」

娘「まあ、お話はわかりました。ただ、それで信用するわけにはいきません」

刑事「はい、ごもっともな判断です。今の私には身元を証明するものが何一つありませんからね」

娘「ですから、とりあえずということで。このまま玄関でお話を伺わせてください」

母「そんな、せっかく来ていただいたのに」

娘「怪しいそぶりを見せたら嵐の海にブチ込みます」

刑事「では、お話を聞いていただけるのですね。ありがとうございます」

20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/08(火) 21:38:49.41 ID:gO755lbx0

母「あ、そうですわ」

娘「お母さんは黙っててください、大事な話をするんですから」

刑事「いえ、そう言わずに。どうなさいましたか奥さん」

母「刑事さんのお話ですと、私が扉を開けたことで相棒さんがお亡くなりになった、ということでよろしいのですよね」

娘「……」

刑事「……ええ、その通りです」

母「困ったわ、まさかサスペンスの当事者になるなんて」

娘「この状況じゃ推理もクソも無いですよ」

刑事「おや、そもそも私の話が嘘だという可能性もありますよ」

娘「話をややこしくしないでくださいブチ込みますよ」

刑事「申し訳ありません。つい癖で」

21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/08(火) 21:42:46.04 ID:gO755lbx0

母「ということはつまり、刑事さんは私達を逮捕しに……?」

刑事「いいえ奥さん、それでは順序が逆です」

娘「大事な用でここへ来る途中に運悪く一人事故死した、というお話ですよ」

刑事「……そうですね、これは事故だったのでしょう」

母「でも、でも……ドアの開閉ボタンを押したのは私ですのよ」

刑事「いえ、彼が亡くなったのはこの嵐が原因です。これは自然災害による事故に他なりません」

母「そんな風に、割り切れるものかしら……私には無理だわ……」

刑事「そんな事より奥さん。あなた、一つ嘘をついておりますね」

母「……」

刑事「あなたは開閉ボタンを押してはいないはず。……そうですよね」

母「……!?」

24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/08(火) 21:44:47.12 ID:gO755lbx0

母「そ、そんなことありません!確かに私がボタンを押したんですから!」

刑事「奥さん、私も何も当てずっぽうで言っているわけではないのですよ」

母「しょ、証拠、そう!証拠はあるの!?」

娘「お母さん……」

刑事「いえ、ね。実は私、ハッキリと見ていたのですよ」

刑事「ドアが開いたその時、娘さんの指がボタンにしっかり触れていたのを」

母「そんな……」

刑事「……」

娘「お母さん、もういいの」

母「もういいなんて、そんなことありますか……!」

娘「お願いですから、サスペンス風に娘を庇う母親ごっこはもうやめてください」

母「そんな、せっかく楽しめると思いましたのに」

25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/08(火) 21:47:37.39 ID:gO755lbx0

娘「一向に話が進まないのでホントにやめてください」

母「ごめんなさい」

刑事「まあまあ、娘さんもそれくらいにして」

娘「あなたも悪乗りしすぎです。一体何しに来たんですか」

刑事「申し訳ありません」

娘「早く本題に移ってください、急ぎだって言ってたじゃないですか」

刑事「はい、そうさせていただきます。実は、お父上の話でございまして」

母「あら、主人なら今留守にしていましてよ」

刑事「はい、それは存じております。そのご主人と今朝から全く連絡が取れなくなってしまったのです」

27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/08(火) 21:49:30.82 ID:gO755lbx0

娘「何故父が警察と連絡を取り合っていたのですか」

刑事「実は今回の異常気象の件で、我々警察も微力ながらお手伝いさせていただいておりまして」

刑事「その中でも我々は特に娘さんのお父上のサポートを」

娘「……ですから、何故父が」

刑事「おや、ご存知ありませんでしたか」

母「……そろそろ話さなければ、とは思っていたんですけれど」

娘「何の話ですか」

刑事「そうでしたか。失礼、ではそこから説明させていただきましょう」

刑事「まず、あなたのお父上ですが。実は、人間ではありません」

娘「……は?」

29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/08(火) 21:52:00.68 ID:gO755lbx0

刑事「お父上はこの海域を治める高位の海神様でして、今回はこの異常気象の調査をお願いしていたのです」

娘「はあ」

母「ごめんなさいね、話すのが遅れちゃって」

娘「……いえ、思い返せば確かに。思い当たる節は色々とあります」

刑事「その調査によってこの異常気象の原因が空から落ちてきた何かによるもの、というところまではわかったのですが」

刑事「そこでお父上との通信は途切れてしまいました」

母「またケータイを海に落としちゃったのかしら」

刑事「いえ、当時の反省から今回は完全防水の無線機を携帯していただきました」

刑事「とにかく、嵐の中心へとたどり着いたお父上が何かと遭遇したのは確かなのです」

30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/08(火) 21:54:24.95 ID:gO755lbx0

娘「それで、私達にどうしろと」

刑事「……娘さんに、調査の引継ぎをお願いしたいのです」

娘「……は?」

母「あの、娘は確かに主人の子ですが、普通の人間ですのよ」

娘「……」

刑事「……その点において、我々はいくらかの目撃情報と、1枚の写真を得ています」

娘「……船舶や航空機では近づけないのですか」

刑事「無論、幾度も試みておりますが、成果はゼロに等しいのが現状です」

刑事「ですが海神様の血筋であれば、お父上と同様に水を操りあの嵐を潜り抜けることが可能かと」

母「ですから、娘にそんな力は無いんですのよ」

娘「……そうです、私は水なんて操れません」

32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/08(火) 21:56:31.80 ID:gO755lbx0

刑事「おかしいですねえ、確かにこの写真には海上を歩く娘さんの姿が……」

娘「人違いか、もしくはフォトショです」

刑事「……それがまさかのウツルンデスでして。ちなみに人違いできるような距離でもありませんよ」

娘「……でも、私は水なんて操れません」

刑事「……確かに、非常に大変なことをお願いしていることは自覚しております」

刑事「ですが、相棒くんがそうだったように、たくさんの人間が命を賭し、そして落としているのです」

刑事「お父上は『これは我々や自然の行ってることではない』とおっしゃっておりました」

刑事「そしてそこに明確な悪意を感じ取り、自ら調査に赴かれたのです」

娘「……」

母「そんな事が……」

刑事「このままではたくさんの家が、街が、人間が海の底に沈んでしまうのですよ」

33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/08(火) 21:59:12.68 ID:gO755lbx0

娘「……ですが、私は本当に水を操れません」

刑事「……そうですか、強制はもちろんできませんが――」

娘「お母さん、私のゴム長出してください」

母「え?あ、はいはい」

 ゴソゴソ

母「これでいい?ちょっと汚れてるけど」

娘「どうせ外に出ればすぐキレイになります」

 ムギュムギュ

刑事「……一体、何をしているのです」

娘「決まってるじゃないですか、お父さんを捜しに行くんですよ」

34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/08(火) 22:02:06.63 ID:gO755lbx0

刑事「あれほど水が操れないと言っていたではありませんか」

娘「はい、そんな力は一切ありません」

刑事「では何故――」

娘「いいから黙って見ててください」

 ガチャッ

 ガッガッ

 ゴー

 ガコンッ

母「相変わらずひどいお天気ねえ」

母「でも、大丈夫なの?あなたどうやって……」

娘「私も、黙っていてすみませんでした」

娘「やはり私はお父さんの娘です」

35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/08(火) 22:04:34.16 ID:gO755lbx0

娘「ではお母さん、行ってきます」

娘「とうっ」

刑事「娘さん!?」

母「きゃあ、海に飛び込むなんて!」

母「……あら?」

刑事「やはり……水を操り、海上に立っている……!」

娘「……いいえ、私にそんな力はありません」

刑事「では僕が目にしているのは何だというのですか」

娘「私の足元をよく見てください」

刑事「……」

刑事「これは……無数の昆布が群がって!!」

母「昆布!?」

36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/08(火) 22:07:42.45 ID:gO755lbx0

娘「……私が操れるのは水ではなく、海藻なのです」

刑事「驚きました、なるほどそういう事でしたか」

娘「こんな力でも、お父さんを捜すことくらいはできると思います」

母「気をつけていってらっしゃいね」

娘「はい、なるべく早く戻れるよう心がけます」

刑事「ご無理をお願いして申し訳ありませんでした、健闘を祈ります」

娘「闘ってくる気はありません」

娘「では、行ってきます」

 ジャプジャプ

39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/08(火) 22:10:52.59 ID:gO755lbx0

子供「雨が止まないよおじいちゃん」

爺「海が、怒っておるんじゃ」

子供「みんな大丈夫かな」

爺「きっと無事じゃ、海の神様にお祈りするんじゃ」

子供「うん!」

子供「……おじいちゃん、海の神様ってアレ?」

爺「……む、いやアレは見たこと無いが、神様には違いなさそうじゃのう……」

爺「は!アレは昆布の神、昆布の神様じゃあ!」

子供「お祈りすればお天気良くなる?」

爺「おお、きっとそうじゃ!お祈りせえ!昆布神様!昆布神様!」

子供「昆布神様!昆布神様!」

40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/08(火) 22:13:36.96 ID:gO755lbx0

 ジャプジャプ

娘「普通の女の子で居たかったのに、こんな事になるなんて」

娘「昆布を操る女の子なんて結婚できるはずが無い」

娘「お父さんがしっかり働いてれば私にお鉢が回ることは……」

 ジャプジャプ

娘「……」

娘「あ、別に昆布の上を歩かなくても昆布自体を動かせばよかったのですね」

娘「私頭いい」

41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/08(火) 22:16:08.71 ID:gO755lbx0

 ゴォー

娘「まさか昆布がこんな快適な乗り物だとは思いませんでした」

娘「気分次第で椅子まで用意できるとは、ヌルヌルしますが」

娘「しかも凄い速い」

娘「あ、風を感じるから速く感じるのでしょうか」

娘「……」

娘「透明な海藻があれば風を防ぐのに丁度良かったのですが」

42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/08(火) 22:19:22.47 ID:gO755lbx0

娘「……昆布の根っこはどのようになっているのでしょう」

娘「凄い勢いで動いてるのはわかりますが、ちゃんと根っこ繋がってるのでしょうか」

娘「全長13kmの昆布とか嫌ですね」

娘「……」

娘「まあ、今度調べることにしましょう」

43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/08(火) 22:21:46.67 ID:gO755lbx0

娘「……海の上に竜巻がいっぱい、巻き込まれたら死んじゃいますね」

娘「この荒れ具合を見るにきっとそろそろ嵐の中心なのでしょう」

娘「むしろこれ以上荒れると死んでしまいます」

娘「現状ですら昆布バリアーのおかげで辛うじて呼吸ができているというのに」

娘「お父さんは一体どこでなにをやっているのでしょうか」

娘「……」

娘「……おや」

44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/08(火) 22:24:48.89 ID:gO755lbx0

娘「何をしているのですかお父さん」

父「……な、何故お前がここに……!」

娘「お父さんが行方不明になったというので捜しに来たのですよ」

父「お前にそんな力があったとはな……さしずめ昆布神といったところか」

娘「なんか凄く嫌です」

娘「そんなことより何をしているのですか、無事も無事、ピンピンしてるじゃないですか」

父「いや、それはだな、その……」

娘「てっきり宇宙からの来訪者とかと戦ってると思っていたのですが」

娘「嵐の中心にはお父さんしか居ないように見えますね」

父「あー……その、話せば長くなるんだが」

父「……ストレス発散的な」

47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/08(火) 22:27:45.15 ID:gO755lbx0

娘「なるほど」

父「別にここまで本格的にやるつもりなかったっていうか、悪乗りしちゃったっていうか」

父「こんな凄い嵐起こす敵を倒して帰ってきた事にすれば貢物増えるかなとか」

娘「ふむふむ」

父「神様にも苦労も欲もそれなりにあるわけで」

娘「たくさんの人がお亡くなりになってるそうですが」

父「……そんなに?やりすぎちゃったなー……」

娘「いいからまず嵐を止めてください」

父「……はい」

娘「何か言うことはありませんか」

父「ごめんなさい」

娘「すいません、ちょっと言葉を間違えました」

父「む?」

娘「何か言い残すことはありませんか」

49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/08(火) 22:31:08.99 ID:gO755lbx0

父「な、何を言っているんだ娘よ」

娘「私は今非常に怒っています」

父「私だってやりすぎたと思っている、反省しているんだ!たくさんの人に申し訳ないことをした!」

娘「そうじゃありません」

娘「お父さんのせいで私が昆布神として崇め奉られてしまう事が大問題なのです」

娘「私はただ、普通の女の子で、普通に結婚して、そして幸せな家庭を築きたかったのです」

父「……そ、そうか……」

娘「ですが今回の騒動を知った人達は私をほうってはおかないでしょう」

娘「社を築き、未来永劫昆布の神として崇めるでしょう」

娘「冗談じゃありません!」

 バシィ

父「ヒイ!」

51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/08(火) 22:33:43.49 ID:gO755lbx0

娘「まあ、なってしまったものは仕方ありません。言いたい事言ったらスッキリしました」

父「……それは良かった」

娘「もっとポジティブに、これからどうすれば幸せに暮らせるか考えてみたのですが」

父「ふむ」

娘「この大災害を食い止めたのが私だということにすれば一生贅沢して暮らせると思いませんか」

父「……おお、さすが我が娘、ポジティブだな」

娘「ですが、問題がひとつあります」

父「父でよければ相談に乗るぞ」

娘「お父さんが居ると、私個神の崇められ方が半減してしまうんですよ」

父「……それは確かに」

娘「ですよね、理解が早くて助かります」

父「……私にどうしろと」

52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/08(火) 22:36:14.07 ID:gO755lbx0

――3日後

母「2人とも遅いわね」

刑事「ですが、嵐は既に止んでいます。おそらく彼らは戦いに勝ったのでしょう」

母「じゃあ、きっと帰ってくるはずよね」

刑事「はい、我々だけでなく、皆がそれぞれ帰りを待ちわびています」

母「あら大変、お祝いの料理足りるかしら」

刑事「問題ないでしょう、その時には皆がそれぞれ持参してくるでしょうから」

母「あら、そうね。私ったら……あら?」

刑事「あれは……!」

母「間違いないわ……あれは!」

54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2012/05/08(火) 22:37:55.42 ID:gO755lbx0

――これはこの小さな国に伝わる伝承のひとつ

空のさらに上から落ちてきた悪意の塊、外の世界の厄神

世は闇に包まれ、嵐と共に様々な災厄を引き起こした

荒れ狂い牙を剥く大海原を民と我が手に取り戻すべく、海神が厄神へ戦いを挑んだ

三日三晩に及ぶ激闘の末、惜しくも海神は厄神の手に落ち、そして暴れる海が陸へと溢れだす

しかしその時、海底からせり上がった昆布達が海を覆い、迫り来る海をせき止めた

海神の娘であるまだ幼い昆布神が、海神の仇を取るべく立ち上がったのだ

悲しみを乗り越えた昆布神が厄神を昆布で覆い、そして海底の深きへ封じ込めた

――世は昆布の神によって守られた



娘「民共よ崇め奉れ、私は昆布神であるぞ」


  オシマイ